精神科訪問看護は、この10年で最も伸びた訪問看護の領域である。グループホームや障害者向けの住まいに入居する利用者を、同じ建物で何人も回る。その事業モデルが、2026年6月の改定で数え方ごと組み替えられた。
当メディアでは先に、精神科訪問看護に特化した機能強化型訪問看護管理療養費4の新設を扱った。あれは精神科訪問看護を評価する側の話だった。今回は、その裏側にある同一建物のルール変更と、GAFが届出要件に組み込まれた意味を確認する。
改定で組み替わったのは精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)、つまり同一建物居住者への訪問である。
同一日に訪問する利用者の人数区分が、2人、3人以上9人以下、10人以上19人以下、20人以上49人以下、50人以上の5段階に細分化された。人数が増えるほど単価が下がる逓減はこれまでもあった。今回はそれに加えて、10人以上の3区分で算定の軸そのものが変わっている。
9人以下の建物では、これまでどおり週3日目までと週4日目以降で単価が分かれる。10人以上の建物では、月20日目までと月21日目以降で分かれる。週で数える建物と月で数える建物が、同じステーションの中に同居することになった。
金額を見る。保健師・看護師・作業療法士の訪問で、3人以上9人以下の建物は週3日目まで2,780円、週4日目以降3,280円。10人以上19人以下の建物は月20日目まで2,760円、月21日目以降2,660円。単価そのものの差は小さい。だが数え方が違う以上、週の感覚で月の建物を処理すれば、月の後半の請求が丸ごとずれる。
ここが、この改定で最も見落とされやすい規定である。
同一建物の人数は、精神科訪問看護の利用者だけで数えるのではない。厚生労働省の留意事項通知は、同一日に訪問看護基本療養費を算定する利用者数、精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者数、包括型訪問看護療養費を算定する利用者数を合算した人数で判定すると定めている。
精神科の利用者が同じ建物に3人しかいなくても、同じ日に一般の訪問看護で8人を訪問していれば、合計11人。10人以上19人以下の区分に入り、週で数えていた建物が月で数える建物に変わる。
精神科と一般の両方を提供するステーションは多い。特に高齢者住宅に併設したステーションでは、認知症や精神疾患のある入居者を精神科訪問看護で、身体疾患の入居者を一般の訪問看護で回している。この合算ルールは、そうしたステーションの請求を直撃する。
さらに、同一建物の範囲も広がった。2026年6月改定で、同一敷地内の建物は同一建物として扱われる。当メディアで短時間訪問のルールを扱った際に書いたとおり、敷地内に複数棟が建つ住まいでは、棟ごとに分けて数える運用が成り立たない。精神科は5つの項目が同一建物の人数で単価が動くため、この定義変更の影響を最も受ける領域になる。
精神科訪問看護基本療養費には、30分未満の区分がある。3人以上9人以下の建物で週3日目までなら、30分以上の2,780円に対して30分未満は2,130円。単価は下がるが、短時間で多くの利用者を回れる。
ただし、この区分は無条件では算定できない。留意事項通知は、当該利用者に短時間訪問の必要性があると医師が認め、精神科訪問看護指示書に明記されている場合にのみ算定すると定めている。短時間で回ったから30分未満の区分で算定する、という運用はできない。
あわせて、同一建物への訪問については、30分以上を標準とし、少なくとも20分を下回らないことが求められる。当メディアで20分未満の訪問は算定できないと書いたルールが、精神科にも同じく適用される。
グループホームで5分ずつ声をかけて回る運用は、指示書の明記がなければ30分未満の区分にも入らず、20分を下回れば算定そのものができない。実施時間の記録が、精神科訪問看護でも算定の裏付けとして機能する。
GAF尺度は、精神疾患の状態を0から100で評価する指標である。精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)または(Ⅲ)を算定する場合、訪問看護記録書、訪問看護報告書、そして訪問看護療養費明細書の3か所に、月の初日の訪問時に判定した値を記載する。
記録には書いたがレセプトへの記載が漏れる。この形の抜けは実務で起きやすい。評価のタイミングも「月1回」ではなく「月の初日の指定訪問看護時」と指定されている。
そして2026年6月、GAFは届出要件にもなった。機能強化型訪問看護管理療養費4の実績要件に、1年以上の入院歴を有する者または入退院を繰り返す者でかつGAFが40以下の者、あるいは精神科重症患者支援管理連携加算を算定する利用者が月に7人以上いること、が含まれている。
当メディアで機能強化型4を扱った際、常勤4名以上という規模の低さとターミナル実績を問わない点を核心として書いた。その記事では触れなかったが、GAF40以下という条件が実績要件に入っている以上、看護師が付けるGAFの値が、そのまま届出の可否を左右する。
GAFは看護師の評価である。40以下は、現実検討能力や意思疎通に重大な障害があるか、ほとんどの領域で機能できない状態を指す。この評価が甘ければ、届出要件を満たせない。厳しすぎれば、利用者の状態と乖離する。評価の妥当性を事業所として担保する仕組みが、届出の前提になった。
整理する。
グループホームや障害者向け住まいを中心に、同じ建物で多くの利用者を回す。短時間で訪問数を稼ぐ。この事業モデルに対して、改定は三つの方向から手を入れた。
一つ目、同一建物の人数区分を細分化し、10人以上で月単位の逓減を入れた。二つ目、一般の利用者と合算して数えることで、精神科だけを少人数に見せる運用を塞いだ。三つ目、30分未満の区分に指示書の明記を要件とし、20分未満を算定不可とした。
その一方で、機能強化型4という評価の道を作った。重症の精神疾患を持つ利用者を継続的に受け入れ、24時間対応し、地域と連携するステーションには月初日9,030円を出す。
当メディアで包括型訪問看護療養費、有料紹介の禁止、有料老人ホームの登録制を扱ってきた流れと、精神科訪問看護の改定は同じ方向を向いている。建物に集住する利用者を短時間で多数回る収益構造を減らし、重症者への継続的な関与を評価する。共同通信が精神科訪問看護の不正疑惑を継続的に報じてきた背景も、この方向を後押ししている。
精神科訪問看護の請求は、一般より判断すべき箇所が多い。改定後に確認すべき点を挙げる。
その日その建物で、一般・精神科・包括型を合算して何人を訪問したか。人数区分は9人以下か10人以上か。10人以上なら日数は月で数える。月の何日目か。境目は項目によって異なり、精神科緊急訪問看護加算は14日目、夜間・早朝と深夜は15日目、基本療養費(Ⅲ)と複数回訪問加算は20日目で単価が変わる。訪問時間は30分以上か。30分未満なら指示書に明記があるか。GAFを記録書・報告書・レセプトの3か所に書いたか。
建物ごとの人数を1か所間違えれば、基本療養費、複数回訪問加算、複数名訪問加算、夜間早朝、深夜の5項目が同時にずれる。しかも母数の取り方は項目ごとに違う。請求ソフトが対応していても、入力する人数が間違っていれば結果は同じである。
精神科訪問看護を主力にする事業所は、改定後の最初の数か月分について、建物ごとの人数と算定区分を突き合わせる作業を一度は行ったほうがよい。返戻ではなく過大請求として残った場合、当メディアで扱った運営指導の記事に書いたとおり、返還の対象になる。
数え方が変わった。それだけの話に見えて、精神科特化型ステーションの収益構造を組み替える改定である。