2026年8月13日、線状降水帯による大雨が千葉県を襲いました。大雨特別警報が出され、翌14日には県内24市町に災害救助法が適用されています。この災害は後に「令和8年8月千葉豪雨」と命名されました。
被災された方々にお見舞い申し上げます。
厚生労働省はこの災害を受け、8月14日、17日、27日、31日と立て続けに事務連絡を発出しました。そのなかには訪問看護の算定と請求に直接関わる内容が含まれています。
災害時の特例は、災害が起きてから探すものではありません。何が発動したのか、事業所は何を確認すべきかを整理します。
まず押さえておきたい前提があります。
厚生労働省は2026年3月31日付で「災害発生時における保険診療関係等及び診療報酬の取扱いについて」という通知を出しています。大規模災害が起きるたびに個別の事務連絡で対応してきた従来の方式を改め、あらかじめ基本的な考え方を通知として整理したものです。
千葉豪雨については、8月17日付の事務連絡でこの通知の「対象となる災害」に該当することが示されました。つまり今回は、新しいルールが作られたのではなく、用意されていたルールのスイッチが入ったという構図です。
2026年に入ってからは熊本地震でも同じ通知が適用されています。今後の災害でも同じ枠組みが使われると考えてよいでしょう。だからこそ、通知の中身を平時に読んでおく意味があります。
訪問看護に関わる特例のうち、最も重要なのが指示書の扱いです。
通常、訪問看護基本療養費と包括型訪問看護療養費は、訪問看護指示書に記載された有効期間内に行った訪問について算定します。有効期間は6か月が上限です。当メディアで医師会との関係を論じた際に触れたとおり、指示書がなければ訪問看護は一件も提供できません。
災害が起きると、この前提が崩れます。主治医のいる医療機関が被災し、連絡が取れない。指示書の期限が迫っているのに、新しい指示書をもらえない。
通知は、次の三つすべてに該当する場合、有効期間を超えていても算定できると定めています。
災害発生の前に主治医から指示書の交付を受けている利用者であること。医療機関が被災したため主治医と連絡がとれず、災害発生後に指示書の交付を受けることが困難であること。そしてステーションの看護師等が、利用者の状態からみて訪問看護が必要だと判断して訪問を実施したこと。
三つ目の要件に注目してください。判断の主体はステーションの看護師です。医師の指示が得られない状況で、看護師の判断によって訪問を続け、それを算定できる。平時にはない権限が、災害時には認められています。
あわせて、主治医と連絡が取れる目途がない場合には、速やかに新たな主治医のもとで治療を続けられるよう環境を整えることも求められています。特例に頼り続けるのではなく、通常の体制に戻す努力が前提です。
二つ目が管理療養費の扱いです。
管理療養費は、訪問看護計画書と報告書を主治医に提出するなど、計画的な管理を継続して行った場合に算定するものです。主治医と連絡がつかなければ、提出のしようがありません。
通知では、医療機関が被災地にあり、被災のため主治医と連絡がとれず、やむを得ず計画書等を提出できない場合でも管理療養費を算定できるとされています。
当メディアで運営指導について扱ったとき、計画書と報告書の提出は算定要件であり、抜けていれば返還の対象になると書きました。その要件が、災害時には免除される。ただし理由が「被災により連絡がとれない」ことに限られる点は、見落とさないでください。
三つ目が訪問先の扱いです。
健康保険法上、訪問看護療養費は居宅において訪問看護を行った場合に算定するものとされています。利用者が避難所に移れば、そこは居宅ではありません。
通知は、被災のため避難所や避難先の家庭などで生活している利用者に訪問看護を行った場合も算定できると明記しました。自宅を離れた利用者を、追いかけて訪問してよいということです。
ここで一つ、注意すべき点があります。同じ避難所に暮らす複数の利用者に、同一日に同じステーションから訪問した場合は、同一建物居住者として扱われます。当メディアで2026年度改定の同一建物逓減を取り上げましたが、避難所という場所でも同じ考え方が適用されるわけです。避難所を回る際の算定は、この点を踏まえて確認する必要があります。
そして四つ目。ここまでの三つの特例を使って訪問した場合、その旨を訪問看護記録書に記録しておくことが求められています。
指示書の期限を過ぎて訪問した日、計画書を提出できなかった月、避難所を訪問した日。それぞれについて、特例に基づく訪問であることと、その理由を記録に残す。
当メディアで訪問看護記録の法的な位置づけを論じた際、記録は算定の根拠であると書きました。災害時はなおさらです。後日、なぜ指示書なしに算定したのかを問われたとき、記録がなければ説明できません。混乱のなかで記録が後回しになりやすいからこそ、あらかじめ記載の型を決めておくことをお勧めします。
医療保険の話が続きましたが、介護保険側にも動きがあります。
8月31日付で厚生労働省老健局は、千葉豪雨による災害に係る介護報酬等の請求の取扱いを示す事務連絡を出しました。記録が失われた場合や、災害直後のサービス提供内容を十分に把握することが困難な場合、2026年8月サービス提供分について概算による請求ができるという内容です。
概算請求を選ぶ事業所は、やむを得ない事情がある場合を除き、9月15日までに所定の様式で国保連に届け出ることになっています。届出を受けた国保連は、原則として5月から7月のサービス提供分の実績をもとに算定します。
期限が近い。該当する可能性のある事業所は、まず自事業所が対象になるかを確認し、対象であれば届出の準備を急いでください。記録が残っていて通常どおり請求できる事業所は、概算請求を選ぶ必要はありません。
なお、8月27日には診療報酬等の請求事務の取扱いについても周知が要請されています。医療保険側の請求で被災の影響がある場合は、地方厚生局の案内を確認してください。
事業所の算定だけでなく、利用者側の負担についても触れておきます。
8月14日には、被災した被保険者について保険料や一部負担金の減免を行うことができる旨が、各都道府県等に周知されました。国民健康保険、後期高齢者医療制度のいずれも対象です。実際に減免が行われるかどうかは保険者の判断によりますが、利用者から自己負担について相談を受けた際に、制度の存在を伝えられるかどうかは大きな違いです。
また、マイナ保険証や資格確認書を持たずに避難した方についても、氏名や生年月日などを申し立てることで保険診療を受けられる特例が示されています。訪問看護の利用者が避難先で受診する場面でも、知っておくべき情報でしょう。
当メディアではBCPについて、策定の義務化と実効性の観点から論じてきました。今回の事務連絡を追って見えてくるのは、BCPの中に「算定と請求の特例」という項目が要るということです。
安否確認、訪問の優先順位、連絡手段。そうした備えは多くの事業所が整えています。けれど、指示書が切れたらどうするか、避難所に移った利用者を訪問して算定できるか、記録が流されたら請求をどうするか。そこまで書き込まれたBCPは、まだ少ないのではないでしょうか。
答えは通知の中にあります。2026年3月の通知は、災害が起きるたびに探さなくてよいように整理されたものです。事業所として一度読み、要点をBCPに書き写しておく。それだけで、次の災害のときに動ける範囲が変わります。
千葉では、いまも復旧が続いています。被災地の訪問看護師が、指示書の期限を気にせず利用者のもとへ向かえるように。この特例は、そのために用意されたものです。