2026年7月1日、社会保障審議会・介護給付費分科会で行われた議論が、業界メディアGemMedにより報じられた。テーマは「理学療法士等(PT/OT/ST)による訪問看護のさらなる適正化」と「機能強化型訪問看護の介護報酬での評価」——訪問看護経営にとって極めて重要な論点である。
本稿では、この議論の内容と経営への影響を、経営者・管理者が抱くであろう疑問にQ&A形式で答えていく。「なぜ今、この議論が出てきたのか」「自ステーションはどう影響を受けるのか」「今から何を確認すべきか」——これらの実務的な問いに、順番に答える。
なお、本稿の内容は2026年7月1日時点のGemMed報道および社保審・介護給付費分科会の公開情報に基づく。議論はまだ進行中であり、確定情報ではない。最新の情報は厚生労働省、業界団体、業界専門メディアで確認していただきたい。
A. 2026年7月1日の社保審・介護給付費分科会では、大きく2つの論点が議論された。
第一に、「理学療法士等(PT/OT/ST)による訪問看護のさらなる適正化」。訪問看護の現場で、看護師ではなくリハビリ職員(PT・OT・ST)による訪問が一定割合を占めている実態がある。この割合の高いステーションへの制度的対応が、長年の議論テーマとなってきた。今回の議論は、その延長線上にある。
第二に、「機能強化型訪問看護の介護報酬での評価」。現状、機能強化型訪問看護管理療養費は医療保険(訪問看護療養費)側で評価されているが、介護保険側での評価はほぼない。この非対称性の見直しが、議論の俎上に上がった。
いずれも、2027年度介護報酬改定に向けた本格的な議論の入口となる論点である。
A. 背景には、業界の構造的な変化がある。
訪問看護ステーションの中には、看護師よりも理学療法士等のリハビリ職員の方が多い、あるいはリハビリ職員の訪問回数が看護師の訪問回数を上回る「リハビリ特化型」の事業所が一定数存在する。これらの事業所は、訪問看護制度の枠内で運営されているものの、実態としては「訪問看護」というより「訪問リハビリテーション」に近い形態である。
厚生労働省・業界団体からは、「訪問看護は看護師による医療的な観察・判断・処置が中核であるべき」「リハビリのみの提供は制度趣旨から外れる」という指摘が、過去数回の改定議論で繰り返し出てきた。実際、過去の改定でもPT/OT/ST訪問への算定制限や減算措置が段階的に導入されてきている。
今回の議論は、こうした流れの延長線上にある。「訪問看護の本来の趣旨に沿った運営」を制度的により明確化する方向性が、2027年改定に向けて検討されている。
A. 段階的に評価が引き下げられ、要件が厳格化されてきた歴史がある。
主要な経緯を整理すると以下のようになる。
2018年度改定では、PT/OT/STによる訪問看護費(訪問看護費I5)の単位数が引き下げられた。従来の看護師による訪問との単価差が明確化された。
2021年度改定では、リハビリ職員の訪問割合が高いステーションへの追加的な減算措置が導入された。理学療法士等による訪問が「一定割合以上」を占める場合の評価が見直された。
2024年度改定でも、PT/OT/ST訪問への評価の見直しが継続された。同時に、リハビリテーション実施計画の作成、医師との連携、看護師のアセスメントへの関与など、質の担保に関する要件が強化されてきている。
そして2026年6月改定では、リハビリ職員による訪問の適正化がさらに進められた。
過去5〜7年の流れを見れば、「PT/OT/ST訪問への評価は継続的に引き下げられ、要件は継続的に厳格化されてきた」というのが業界の一貫した方向性である。
A. リハビリ職員の訪問割合が高いステーションほど、影響が大きくなる構造である。
自ステーションの構造を、以下の3つの観点から把握することが重要となる。
一つ目は、訪問回数に占めるリハビリ職員の割合。看護師による訪問が中心であれば、影響は限定的だ。しかしリハビリ職員による訪問が過半数を占めるステーションでは、2027年改定でさらなる評価引き下げが行われた場合、収益への直接的なインパクトが発生する。
二つ目は、売上構成における介護保険と医療保険の比率。介護保険中心のステーションでリハビリ職員訪問が多い場合、今回の議論の直接的な影響を受ける。一方、医療保険中心で医療依存度の高い利用者を扱うステーションは、リハビリ職員の割合そのものが低い傾向があり、影響は相対的に小さい。
三つ目は、機能強化型の取得状況。機能強化型を取得しているステーションは、看護師配置や24時間対応体制などの要件を満たしているため、リハビリ職員の割合は構造的に低くなる。今回議論されている「機能強化型の介護報酬側での評価」が実現すれば、機能強化型取得ステーションはさらに有利になる可能性がある。
自ステーションが上記のどこに位置しているかで、経営への影響と取るべき対応が全く異なる。
A. リハビリ特化型として運営してきた独立系ステーションは、特に慎重な戦略検討が必要な時期に入っている。
業界の一般的な傾向として、リハビリ職員比率が高い独立系ステーションには、いくつかの共通した経営構造がある。看護師確保の困難さから、参入しやすいリハビリ職員を中心に事業を組み立てたケース。母体となる医療機関等がなく、独立して収益を確保する必要があるため、算定しやすいリハビリ訪問中心の運営になったケース。ケアマネジャーからの紹介経路が「軽度の要介護者へのリハビリ訪問」中心のケース——。
これらの構造で運営してきたステーションは、過去数回の改定で段階的に評価を引き下げられ、経営マージンが徐々に圧迫されてきている。2027年改定でさらなる適正化が行われれば、事業モデルそのものの見直しを迫られる可能性がある。
具体的な対応方向としては、看護師の採用強化による「看護師中心のステーションへの構造転換」、機能強化型取得を視野に入れた要件整備、他の訪問看護ステーションや医療機関との統合・M&A、事業縮小や撤退の判断——などが選択肢となる。
いずれの選択も簡単ではない。だからこそ、政策動向が固まる前の今の段階で、選択肢を整理しておく必要がある。
A. 議論は始まったばかりで、確定的なことは何も言えない。ただ、方向性としては注目すべき動きである。
現状、機能強化型訪問看護管理療養費は医療保険側にのみ設定されている。介護保険の訪問看護費には、機能強化型に相当する評価はほぼない。この非対称性は、業界団体からも継続的に指摘されてきた。
「同じ機能強化型ステーションで、同じ利用者に同じ質のケアを提供しているのに、医療保険算定時と介護保険算定時で評価が異なるのは合理性に欠ける」というのが、業界側の一貫した主張である。
今回の議論で「介護報酬側での機能強化型評価」が俎上に上がったことは、この積年の課題への対応が動き始めた可能性を示唆する。ただし、財源の確保、要件の設定、既存加算との整合性など、実現までのハードルは高い。2027年改定で全面的に導入されるか、部分的な評価にとどまるか、あるいは2030年改定まで持ち越されるか——現時点では予断を許さない。
いずれにせよ、機能強化型を取得しているステーションにとって、注視すべき動向である。
A. 自ステーションの構造を数字で把握することから始めることを推奨する。
具体的には、以下の指標を月次または四半期で確認したい。
訪問回数における看護師とリハビリ職員の比率。売上構成における介護保険と医療保険の比率。機能強化型の取得状況と、取得可能性の評価。連携先ケアマネジャーからの紹介経路と、その内容の分析。リハビリ職員の稼働状況と、看護師採用の可能性——。
これらを把握することで、自ステーションが政策動向のどの位置にいるか、何が変わると影響を受けるかが見えてくる。
「今すぐ大きな経営判断をする必要はない」——2027年改定の議論はまだ始まったばかりで、具体的な要件や加算率が示されるのは早くて2026年秋以降、確定は2027年冬〜春である。時間はまだある。
しかし、「政策動向を追わない」ことのリスクは大きい。方向性が固まってから慌てて対応するのと、方向性が固まる前から選択肢を持って準備しておくのとでは、経営の質が大きく変わる。
社保審・介護給付費分科会での議論は、業界の構造に段階的な変化を促す動きである。「PT/OT/ST訪問の適正化」も「機能強化型の介護報酬評価」も、突然出てきた議論ではなく、業界の長年の論点が2027年改定に向けて再び動き出したものだ。
経営者に求められているのは、「議論の内容を正確に把握する」「自ステーションの構造を数字で理解する」「複数の選択肢を持って準備する」——この3点である。
政策動向は経営環境を作る。しかし、経営そのものを決めるのは経営者自身の判断である。動向を追いながら、自ステーションの独自の道を選択していく姿勢が問われている。
なお、本稿の内容は2026年7月1日時点のGemMed報道および社保審・介護給付費分科会の公開情報に基づく。議論はまだ進行中であり、確定情報ではない。最新の情報については、厚生労働省、公益社団法人日本看護協会、業界専門メディア等の公式発表を確認していただきたい。