訪問看護師が利用者の自宅にいて、画面の向こうに医師がいる。看護師が体に触れて確かめたことを医師に伝え、医師が診断し、指示を出す。
この形をD to P with Nといいます。ドクター・トゥ・ペイシェント・ウィズ・ナース。医師と患者をオンラインでつなぐ診療に、看護師が現場で加わる形態です。
仕組み自体は以前からありました。ただし制度上はへき地や離島に限られ、訪問看護ステーション側に報酬はなく、実際に取り組む事業所はほとんどなかったと指摘されています。
その状況が、2026年度の診療報酬改定で変わりました。
改定で何が変わったのか。要点を整理します。
第一に、地域の限定が撤廃されました。へき地や離島に限るという条件がなくなり、全国どこでも実施できるようになっています。
第二に、訪問看護ステーション側の評価が新設されました。訪問看護遠隔診療補助料です。月あたりの評価として設定され、これまで無報酬だった業務に対価がつきました。
第三に、医師側の評価も広がりました。看護師等が現場で検査や処置、注射を行った場合を評価する実施料が新設され、再診料や外来診療料にも看護師等遠隔診療補助加算が設けられています。
さらに疑義解釈では、定期の訪問看護を行っている最中にD to P with Nを実施する場合について、取り扱いが明確化されました。実務上の疑問が、通知の形で整理されつつあります。
背景にあるのが、オンライン診療そのものの法制化です。
2026年4月から医療法の改正により、オンライン診療が法的に位置づけられました。どの医療機関でどのような形で行われているかを可視化し、不適切なものには都道府県が指導を行う仕組みが整えられています。
同時に施設基準も厳しくなりました。オンライン診療指針のチェックリストを自院のウェブサイトに掲示すること、医療広告ガイドラインを遵守すること、向精神薬を処方する際には電子処方箋管理サービスで重複投薬をチェックすること。こうした要件が加わっています。
適正な形で推進する。その枠組みが整ったうえで、D to P with Nが本格的な評価の対象になった。順序としては、規制と推進が同時に進んだ形です。
当メディアで新たな地域医療構想について解説したとおり、国は医療提供体制の再編を進めています。医師が足りない地域で、どう医療を届けるか。オンライン診療と訪問看護の組み合わせは、その答えのひとつとして位置づけられたといえます。
制度の説明はここまでにして、この変更が持つ意味を考えたいと思います。
当メディアでは繰り返し、訪問看護の構造的な特徴を扱ってきました。利用者の家に一人で入り、その場で観察し、判断する。相談できる同僚はそばにいない。適性について論じた際には、この点への不安が転職をためらう最大の理由のひとつであることをお伝えしました。オンコールの記事でも、電話一本で判断を迫られる緊張について書きました。
D to P with Nは、この構造に手を入れる仕組みです。判断に迷う場面で、その場で医師と画面をつなげる。看護師が観察した所見を伝え、医師が診断を下し、必要なら指示を出す。搬送すべきかどうか、様子を見てよいかどうかを、一人で背負わなくてよくなる。
もちろん、いつでもつながるわけではありません。医師の側にも診療の時間があり、体制が要ります。それでも、つなげる選択肢があること自体が、現場の負担を変える可能性があります。
医師の側から見ても、意味は小さくありません。往診に向かえば移動に時間を取られますが、看護師が現場にいれば、遠隔でも触診の情報や皮膚の状態を確かめられる。限られた医師の時間を、より多くの患者に配分できることになります。
もう一歩踏み込んで考えてみます。
当メディアで医師会との関係を論じた際、日本の訪問看護は主治医の指示を文書で受けなければ提供できないという法令上の非対称性を扱いました。国際比較の記事では、オランダのビュートゾルフのように看護師チームがケアの全プロセスに責任を持つモデルもあることを紹介しています。
D to P with Nは、そのどちらとも違う形です。医師の関与は保たれます。むしろリアルタイムで医師とつながるのですから、関与はより濃くなるともいえる。一方で、現場で観察し手技を行うのは看護師です。医師の目となり手となるという表現が、実務資料でも使われています。
看護師の裁量を制度的に広げるのではなく、医師とつながる密度を上げることで役割を広げる。日本型のタスクシフトの形が、ここに表れているのかもしれません。当メディアで扱った特定行為研修が「あらかじめ定めた手順書に基づく裁量」だとすれば、D to P with Nは「その場で医師とつながる補助」ということになります。
どちらが優れているという話ではなく、両輪として整備が進んでいると見るべきでしょう。
実務として何が必要になるのか、整理しておきます。
まず、連携する医療機関です。オンライン診療を実施できる体制を持ち、施設基準を満たしている医療機関でなければ成り立ちません。すでに関係のある在宅医に、対応の可否を確認するところから始まります。
次に、通信の環境と機器です。利用者宅で安定した通信ができるか。画面と音声の質は十分か。当メディアでケアプランデータ連携システムの障害について書いたとおり、通信に依存する仕組みには止まったときの備えも要ります。
そして、利用者と家族への説明です。画面越しに医師が診るという形に、戸惑う方もいるはずです。何のためにそうするのか、どんな場面で使うのかを事前に伝えておく必要があります。
算定にあたっては、要件と記録が問われます。2026年度改定全体の方向として、記録による証明が算定の前提になっていることは、当メディアで繰り返しお伝えしてきたとおりです。実施した内容と時刻を、確実に残す運用を整えてから始めたいところです。
最後に、現状に触れておきます。
へき地に限定されていた時期、この仕組みを活用する訪問看護ステーションはほぼゼロだったと指摘されています。限定が外れた今も、すぐに広がるとは限りません。連携先の確保、機器の準備、利用者への説明。手間は確実にかかります。
それでも、取り組む価値のある領域だと考えます。医師の往診が難しい地域で、あるいは急変時の判断が求められる場面で、この仕組みは確かな役割を果たしうる。そして看護師にとっては、一人で抱えなくてよい環境が、この仕事を続けやすくすることにもつながります。
在宅医療は医師が家に行くもの。その前提が、少しずつ組み替えられようとしています。訪問看護がその再編の中でどんな位置を占めるのか。制度は、選択肢を用意しました。使うかどうかは、それぞれの事業所の判断に委ねられています。