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新卒看護師の離職率が8%台に改善|訪問看護ステーション経営者が学ぶべき「定着」の本質

宮木 · 2026年5月28日
日本看護協会の発表によると、新卒看護職員の離職率が2年ぶりに10%台から8%台に改善した。約4割の病院が多様な働き方を導入したことが背景にある。人材確保が最大の経営課題である訪問看護ステーションにとって、この改善から学ぶべきことは多い。経営者として10年余り運営してきた立場から、定着の本質を考察する。

公益社団法人日本看護協会のニュースリリースによると、新卒看護職員の離職率が2年ぶりに10%台から8%台へ改善した。さらに、約4割の病院が多様な働き方を導入していることも明らかになった。

看護師不足が深刻化する中で、この離職率改善は業界全体にとって明るいニュースである。同時に、人材確保が最大の経営課題である訪問看護ステーション経営者にとっては、「定着の本質」を学ぶ貴重な手がかりでもある。

私自身、訪問看護ステーション経営者として10年余り運営してきた中で、人材の確保と定着には常に頭を悩ませてきた。採用に苦労し、せっかく採用した看護師が早期に離職する痛みも、何度も経験した。

本記事では、新卒看護師の離職率改善の背景を整理し、訪問看護ステーション経営者として、そこから何を学ぶべきかを考察する。

新卒看護師の離職率改善の数字

まず、日本看護協会が発表した数字を確認する。

離職率の改善

日本看護協会のニュースリリースによれば、新卒看護職員の離職率は以下のように改善した。

  • 直近の調査: 2年ぶりに10%台から8%台へ改善
  • 多様な働き方を導入している病院: 約4割

新卒看護師の離職率が改善したことは、看護師の定着に向けた取り組みが、一定の成果を上げ始めていることを示している。

改善の背景

離職率改善の背景には、複数の要因がある。

第一に、多様な働き方の導入。約4割の病院が、短時間勤務、夜勤専従、日勤専従、選択的シフトなど、多様な働き方を導入したことが、定着につながったと考えられる。

第二に、新人教育体制の充実。プリセプター制度、新人研修プログラム、メンタルサポート体制など、新人看護師を支える仕組みが整備されてきた。

第三に、働き方改革の進展。労働時間の管理、有給休暇の取得促進、ハラスメント対策など、労働環境の改善が進んだ。

これらの取り組みが複合的に作用して、離職率の改善につながったと推察される。

看護師全体の課題は残る

ただし、看護師業界全体の課題が解決したわけではない。

日本看護協会の別の発表によれば、看護師の基本給は2012年から2024年までの12年間で、わずか約6,000円の増加にとどまっている。業務に見合わない賃金の低さが、就業継続を困難にしている構造は依然として残っている。

新卒看護師の離職率改善は明るいニュースだが、看護師全体の処遇改善という大きな課題は、まだ道半ばである。

訪問看護ステーションの離職の現実

ここで、訪問看護ステーションにおける離職の現実を整理する。

訪問看護師の離職リスク

訪問看護ステーションは、人材確保において特有の難しさを抱えている。

採用面の難しさ:

  • 訪問看護経験者の絶対数が少ない
  • 求人倍率が高い
  • 即戦力人材の獲得競争が激しい

定着面の難しさ:

  • 一人で判断する重圧
  • オンコール体制による負担
  • 物理的な孤独
  • ご家族との関係構築の難しさ
  • 利用者の看取りによる心理的負担

これらの要因が複合的に作用して、訪問看護師の離職リスクは病棟看護師より高い側面がある。

離職がもたらす経営インパクト

訪問看護師1名の離職は、経営に大きなインパクトを与える。

直接的なコスト:

  • 採用コスト(紹介手数料、求人広告費等)
  • 教育コスト(同行訪問期間の収益機会損失)
  • 業務移行コスト(担当利用者の引き継ぎ)

間接的なコスト:

  • 利用者・ご家族の不安
  • 残ったスタッフの負担増
  • ステーションの評判への影響
  • 人員基準割れのリスク

訪問看護師1名の採用・教育には、年収の20〜30%相当のコストがかかるとされる。離職率を下げることは、経営の安定に直結する。

離職率と経営の関係

離職率が高いステーションと低いステーションでは、経営状況に大きな差が生まれる。

離職率が高いステーション:

  • 常に採用活動に追われる
  • 教育コストがかさむ
  • サービスの質が安定しない
  • 利用者からの信頼が得にくい
  • 残ったスタッフの負担増による悪循環

離職率が低いステーション:

  • 採用コストを抑えられる
  • ノウハウが蓄積される
  • サービスの質が安定する
  • 利用者からの信頼が高い
  • 好循環が生まれる

経営者として、離職率は最重要のKPIの一つである。

新卒看護師の離職率改善から学ぶ5つの教訓

新卒看護師の離職率改善の背景から、訪問看護ステーション経営者が学ぶべき教訓を整理する。

教訓1: 多様な働き方の導入

新卒看護師の離職率改善の最大の要因は、多様な働き方の導入だった。これは訪問看護ステーションにも応用できる。

訪問看護で導入できる多様な働き方:

  • 短時間勤務(育児・介護との両立)
  • 日勤専従(オンコールなし)
  • 週3〜4日勤務
  • 直行直帰制
  • 時短正社員制度
  • 副業・兼業の許容

一律の働き方を強制するのではなく、看護師一人ひとりのライフステージに応じた柔軟な働き方を用意することが、定着につながる。

私が運営するステーションでも、子育て中の看護師には短時間勤務とオンコール免除を、ベテラン看護師には日勤専従の選択肢を用意している。これにより、多様な人材が長く働き続けられる環境を作っている。

教訓2: 新人教育体制の充実

新卒看護師の離職率改善には、新人教育体制の充実も寄与した。訪問看護ステーションでも、新人教育は定着の鍵となる。

訪問看護での新人教育のポイント:

  • 十分な同行訪問期間の確保
  • 段階的な担当利用者の拡大
  • 定期的な振り返りミーティング
  • メンター制度
  • 困った時にすぐ相談できる体制

新人を「即戦力」として扱うのではなく、時間をかけて育てる姿勢が、結果として定着率を高める。

教訓3: 労働環境の改善

働き方改革の進展も、離職率改善に貢献した。訪問看護ステーションでも、労働環境の改善は最重要課題である。

訪問看護で改善すべき労働環境:

  • 労働時間の適正管理
  • 残業の最小化
  • 有給休暇の取得促進
  • オンコール負担の軽減
  • ハラスメント対策
  • 記録業務の効率化(ICT活用)

特にオンコール負担は、訪問看護師の離職の主因の一つである。オンコール体制の見直し、複数ステーションでの連携、ICT活用による効率化など、複合的な対策が必要となる。

教訓4: 心理的安全性の確保

新人看護師が安心して働ける環境作りが、離職率改善につながった。訪問看護ステーションでも、心理的安全性の確保は重要である。

心理的安全性を高める要素:

  • 失敗を責めない文化
  • 困った時に相談しやすい雰囲気
  • 意見を言いやすい環境
  • 上下関係のフラット化
  • 多様性の尊重

訪問看護は一人で判断する場面が多いからこそ、「困ったらすぐ相談していい」という心理的安全性が、看護師の安心と定着につながる。

教訓5: 処遇改善への取り組み

看護師の処遇改善は、依然として大きな課題である。訪問看護ステーションでも、処遇改善への取り組みが定着の基盤となる。

訪問看護での処遇改善:

  • 2026年新設の処遇改善加算の活用
  • ベースアップ評価料の活用
  • 適正な給与水準の設定
  • キャリアパスに応じた昇給
  • 賞与の充実

2026年6月施行の改定で、訪問看護にも介護職員等処遇改善加算が新設される。この機会を活用して、看護師の処遇を実質的に改善することが、定着につながる。

訪問看護ステーションの定着戦略

ここから、訪問看護ステーション経営者として実践すべき定着戦略を整理する。

戦略1: 採用段階でのミスマッチ防止

定着は、採用段階から始まる。採用時のミスマッチが、早期離職の最大の原因である。

ミスマッチ防止のポイント:

  • 訪問看護の現実を正直に伝える
  • オンコール体制を明確に説明する
  • 給与・待遇を明示する
  • ステーションの理念・方針を共有する
  • 体験同行の機会を設ける

「いいことばかり」を伝えて採用すると、入職後のギャップで早期離職につながる。誠実な情報提供が、長期的な定着の基盤となる。

戦略2: オンボーディングの充実

入職後の最初の3か月が、定着の分かれ目となる。この期間のオンボーディング(受け入れ・定着支援)を充実させる。

オンボーディングの要素:

  • 丁寧な同行訪問
  • 段階的な業務移行
  • メンター制度
  • 定期的な面談
  • 同期・先輩との関わり

最初の3か月で「このステーションで働き続けたい」と思ってもらえるかが、定着の鍵となる。

戦略3: キャリアパスの可視化

看護師が「このステーションで成長できる」と感じられることが、長期的な定着につながる。

キャリアパスの要素:

  • 職位区分の明示(一般・主任・管理者等)
  • 各職位の要件と待遇
  • 認定看護師等の資格取得支援
  • 研修機会の提供
  • 専門領域でのキャリア形成

「ずっと同じ仕事」ではなく、「成長できる環境」を示すことが、定着につながる。

戦略4: 定期的な対話

経営者・管理者と看護師の定期的な対話が、定着の基盤となる。

対話の仕組み:

  • 月次1on1ミーティング
  • 四半期面談
  • 年次キャリア面談
  • 随時の相談対応

対話を通じて、看護師の不満・不安・希望を早期に把握し、対応することが、離職の予防につながる。

戦略5: 処遇への継続投資

最終的に、処遇への継続投資が定着を支える。

処遇投資の項目:

  • 適正な給与水準
  • 賞与の充実
  • 退職金制度
  • 福利厚生
  • 処遇改善加算の活用

「この待遇なら続けたい」と思える処遇を提供することが、定着の土台となる。

経営者として持つべき視点

定着戦略を実践する経営者として、持つべき視点を整理する。

視点1: 定着は採用より重要

新しい人を採用するより、今いる人に長く働いてもらうほうが、はるかにコスト効率が良い。

採用コストと定着投資を比較すると、定着への投資のほうが、長期的にはるかに高いリターンを生む。経営者として、「採用」より「定着」に経営資源を振り向ける発想が重要である。

視点2: 数字で離職を管理する

離職を「感覚」で捉えるのではなく、数字で管理する。

管理すべき数字:

  • 年間離職率
  • 入職後1年以内の離職率
  • 離職理由の分類
  • 在職期間の分布
  • 採用コストと定着コストの比較

これらを月次・年次で把握することで、定着への取り組みの効果を検証できる。

視点3: 離職の予兆を察知する

離職は、ある日突然起こるのではない。必ず予兆がある。

離職の予兆:

  • 有給取得の変化
  • 残業時間の変化
  • ミーティングでの発言量の変化
  • 表情・態度の変化
  • 業務への意欲の変化

経営者・管理者として、これらの予兆を早期に察知し、対応することが、離職の予防につながる。

視点4: 「辞めたい」を相談できる関係

看護師が「辞めたい」と思った時に、それを経営者・管理者に相談できる関係を作ることが重要である。

相談できる関係があれば:

  • 不満・不安を早期に把握できる
  • 解決策を一緒に考えられる
  • 引き止めの機会が生まれる
  • 円満な退職につながる(再雇用の可能性も)

「辞めたい」を言い出せない雰囲気が、突然の離職を生む。日頃から、何でも相談できる関係を築くことが重要である。

視点5: 辞める人を責めない

それでも、人は辞める。ライフステージの変化、キャリアの方向転換、家庭の事情など、様々な理由で離職は発生する。

辞める人を責めるのではなく、円満に送り出す姿勢が重要である。

円満な退職のメリット:

  • 残ったスタッフへの良い影響
  • 退職者との良好な関係維持
  • 将来の再雇用の可能性
  • 退職者からの紹介
  • ステーションの評判向上

「辞める人を大切にする」ことが、結果として「残る人を大切にする」ことにもつながる。

看護師個人へのメッセージ

ここで、経営者の立場を離れて、看護師個人にもメッセージを送りたい。

「辞めたい」は正当な感情

訪問看護師として働く中で、「辞めたい」と感じる瞬間は、誰にでもある。それは弱さではなく、自然な感情である。

「辞めたい」と感じたら、まず信頼できる人に相談してほしい。一人で抱え込まず、経営者・管理者、同僚、家族、友人など、誰かに話すことで、解決の糸口が見つかることもある。

働き方を選ぶ権利

新卒看護師の離職率改善の背景にあった「多様な働き方」は、すべての看護師が持つべき選択肢である。

短時間勤務、日勤専従、週3〜4日勤務など、自分のライフステージに合った働き方を選ぶことは、看護師の正当な権利である。今の働き方が合わないと感じたら、働き方の変更を相談することも選択肢である。

環境を変える選択

それでも、今の職場が合わないと感じたら、環境を変える選択もある。

転職、異動、一時的な離職など、自分に合った環境を求めることは、決して逃げではない。看護師資格は消えない。何度でもやり直せる。

自分の心と体を大切にしながら、長く看護を続けられる環境を、ぜひ見つけてほしい。

まとめ

新卒看護師の離職率が8%台に改善したことは、看護業界全体にとって明るいニュースである。多様な働き方の導入、新人教育体制の充実、労働環境の改善——これらの取り組みが、定着につながった。

訪問看護ステーション経営者として、この改善から学ぶべきことは多い。多様な働き方の導入、新人教育の充実、労働環境の改善、心理的安全性の確保、処遇改善への取り組み——これらすべてが、訪問看護師の定着につながる。

人材確保が最大の経営課題である訪問看護業界において、「定着」は経営の生命線である。採用に追われるのではなく、今いる看護師に長く働いてもらえる環境を作ることが、結果として経営の安定とサービスの質向上につながる。

2026年6月施行の処遇改善加算をはじめとする制度変更を活用しながら、訪問看護師が安心して長く働ける環境を作っていくことが、これからの訪問看護経営の鍵となる。

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