2026年度の診療報酬改定に伴い、指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準が改正されました。
新たに義務づけられた項目のなかに、目を引くものがあります。適正な手続きの確保。健康保険事業の健全な運営の確保。特定の主治の医師および特定の事業者等への誘導の禁止。そして、経済上の利益の提供による誘引や誘導の禁止です。
平たく言えば、利用者を集めるために金品を使ってはならない、という規定が明文化されました。加算の新設や点数の改定に比べて話題にはなりませんでしたが、業界の慣行に踏み込む内容です。
何が禁じられたのか、そして事業所は何を確認すべきかを整理します。
条文の内容を確認します。示された規定は、大きく二つの方向を持っています。
一つ目が、利用者に対する誘引の禁止です。指定訪問看護事業者は、利用者に対して訪問看護の値引きをすることなど、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益の提供によって、利用者を自己の訪問看護を受けるように誘引してはならないとされました。
二つ目が、他事業者に対する誘引の禁止です。指定訪問看護事業者は、他の事業者やその従業員に対して、利用者を紹介する対価として金品を提供することなど、経済上の利益の提供によって、利用者が自己の訪問看護を受けるように誘引してはならないとされています。
紹介してもらった対価に金品を渡す。この行為が、明確に禁じられました。
さらに医療機関の側にも、対応する規定が設けられています。保険医療機関および保険医療養担当規則の改正により、指定訪問看護などを利用するべき旨の指示等を行うことの対償として、金品その他財産上の利益を収受することが禁止されます。
渡す側も、受け取る側も、双方が規制の対象になりました。
ここで、一つの推論が成り立ちます。
こうした規定が新設されたということは、そうした行為が、規制を必要とするほど問題として認識されていたということでもあります。国が運営基準にわざわざ書き込むのは、通常、実態があるからです。
当メディアでは、訪問看護に利用者が届く三つの入口を分析してきました。主治医の指示書、ケアマネジャーのケアプラン、そして病院の退院支援室。いずれの経路でも、訪問看護は選ばれる側に立ちます。同じ地域に2万を超えるステーションがあり、どこに依頼するかを決めるのは紹介元です。
選ばれなければ、利用者は来ない。売上が立たない。当メディアで赤字の構造を論じたとおり、月商347万円の平均的な事業所に残る利益は月36万円ほどです。稼働が上がらなければ、事業は続きません。
その圧力のもとで、何が起きうるか。想像は難くないと思います。
もう一つ、見落とせない規定があります。特定の主治の医師および特定の事業者等への誘導の禁止です。
訪問看護を始めるには、主治医の指示書が必要になります。当メディアで医師会との関係を論じた際、この法令上の非対称性を扱いました。指示書がなければ、一件も訪問できません。
主治医がいない利用者、あるいは訪問診療に対応していない医師にかかっている利用者について、事業所が特定の医師を紹介する場面は現実にあります。それ自体は、必要な支援でもある。
ただ、その紹介が利用者の利益ではなく、事業所と医師の関係を優先して行われるなら、話は別です。この医師なら指示書をすぐ書いてくれる、この医師に頼めば利用者を回してもらえる。そうした相互依存が、利用者の選択を狭めることになりかねません。
今回の規定は、その構造に線を引くものだと読めます。
同じ改正で、他にも複数の項目が義務づけられています。
事故発生時等の安全管理の体制確保。訪問看護記録書等の記録の整備。当メディアで訪問看護記録の法的な重さを論じた際に述べたとおり、記録は算定の根拠であり、法的な証拠でもあります。今回の改正で、その整備が運営基準上の義務として明記されました。
もう一つ、実務に直結する明確化があります。指定訪問看護の提供にあたり、服薬状況の確認も含めて利用状況等の把握を行う必要があることが明確化されました。残薬の状況も含まれます。
当メディアで疼痛管理や精神科訪問看護について書いた際に、服薬の確認の重要性をお伝えしてきました。それが運営基準の側から求められる形になります。訪問時に残薬を確認しているか、記録に残しているか。運営指導で問われる項目が増えたと考えるべきでしょう。
では、何を点検すればよいのか。項目を挙げます。
第一に、紹介元との金品のやり取りです。中元や歳暮、手土産といった慣行がある事業所は、あらためて整理が必要でしょう。社会通念上の儀礼と、紹介の対価とは性質が異なります。ただ、その線引きは曖昧になりやすい。紹介件数に応じて何かを渡している、あるいは渡す約束をしているなら、明確に問題があります。
第二に、利用者への費用に関する説明です。値引きによる勧誘が禁じられた以上、自己負担額について例外的な取り扱いを示唆することは避けなければなりません。
第三に、医師の紹介の記録です。利用者に医療機関を紹介した場合、なぜその医療機関を選んだのかを説明できるようにしておく。複数の選択肢を示したのか、利用者の希望を確認したのか。記録に残しておけば、後から問われても答えられます。
第四に、営業活動の内容の共有です。紹介元への挨拶回りを担当者に任せきりにしていないか。何をどこまで行っているかを、事業所として把握しているか。当メディアで管理者の役割について論じたとおり、担当者個人の判断に委ねる領域を減らすことが、組織を守ることになります。
最後に、この改正の意味を考えたいと思います。
規制が増えることを、負担としてのみ受け取る向きもあるでしょう。書類が増え、確認事項が増え、運営指導で問われる項目が増える。
けれど、この規定によって不利益を被るのは、金品で紹介を得ていた事業者です。逆に言えば、そうした手段を使わずに紹介を積み上げてきた事業所にとっては、競争条件が公平になる方向に働きます。
当メディアでは、ケアマネジャーとの関係を論じた際に、選ばれるかどうかを決めるのは営業テクニックではなく、報告の質と対応の速さとスタッフの質だと書きました。退院支援室との関係でも、同じ結論に至りました。
今回の規定は、その考え方を制度が後押しするものだと受け取ることもできます。金品で紹介を買う事業者が存在すれば、真面目に実績を積み上げている事業所は不利になる。その歪みを正すための規制です。
2万を超えるステーションが競い合う市場で、何によって選ばれるのか。制度は、その答えを絞り込みにきました。残された道は、ケアの質と連携の誠実さで評価されることです。地味ですが、それが本来の姿だったはずです。