経済産業省が公表した業種指定の一覧に、「8342 看護業」という項目が並んでいます。セーフティネット保証5号の対象業種です。指定期間は2026年7月1日から9月30日まで。
この制度は、業況が悪化している業種を国が指定し、その業種に属する中小企業が信用保証協会の保証を受けやすくする仕組みです。日本看護協会も会員向けに周知しており、6月11日から信用保証協会での事前相談が始まっています。
看護業が業況悪化業種として指定された。その事実が示すものと、実際に使える制度の内容を整理します。
まず制度の仕組みを確認します。
中小企業が金融機関から融資を受ける際、信用保証協会が保証人の役割を果たすことで借入がしやすくなる仕組みがあります。セーフティネット保証は、その中でも特定の事情を抱えた事業者を対象とした制度です。号数によって対象が分かれており、5号は業況の悪化している業種に属する事業者を対象としています。
対象業種は国が指定し、四半期ごとに見直されます。今回、看護業が2026年7月から9月までの指定を受けたわけです。
利用するには、市区町村から認定を受ける必要があります。認定を受けたうえで金融機関や信用保証協会に申し込む流れになります。売上高の減少などの要件があるため、詳細は自治体の窓口で確認してください。
制度の内容以上に注目すべきは、国が看護業を業況悪化業種として位置づけたという事実です。
当メディアでは、この業界の収益に関する矛盾を繰り返しお伝えしてきました。令和7年度の介護事業経営概況調査で、訪問看護ステーションの収支差率は10.3%と示されました。全介護サービスの平均が4.7%ですから、その倍以上。介護サービスの中で最も高い水準です。
ところが同じ調査のサービス別内訳を見ると、訪問看護の38.2%が赤字でした。平均値が高いことと、個々の事業所が黒字であることは、まったく別の話なのです。
倒産と廃業も増えています。訪問看護ステーションの廃止は過去最多の水準が続き、事業所数の増加と撤退が同時に進む状況が定着しました。人件費率は74%を超え、公定価格のため採用コストの上昇を価格に転嫁できません。
国の業種指定は、そうした現実の裏づけでもあります。数字の平均だけを見ていては見えない苦しさが、制度の側から認められた形です。
では、実際にどんな状況で活用できるのでしょうか。
まず、売上が落ちている局面です。利用者の入院や逝去が重なり、稼働が下がる月があります。訪問看護の売上は訪問件数で決まりますから、想定を下回れば即座に収支に響きます。
次に、人材確保にかかる費用です。当メディアでお伝えしたとおり、人材紹介会社への手数料は看護師一人あたり100万円規模になることがあります。採用に踏み切りたいが、その資金の手当てが必要という場面は少なくありません。
そして、賃上げへの対応です。処遇改善の原資は制度として用意されていますが、入金は後から来ます。当メディアで整理したとおり、報酬の入金は請求から約2か月遅れます。先に賃金を支払い、後から補填される構造では、その間の資金が必要になります。
設備投資も考えられます。電子カルテやICTの導入は、いまや効率化のためだけでなく、記録による算定の根拠を守る基盤になりました。
ここで、経営の考え方として一つ申し上げたいことがあります。
融資は、資金が尽きてから相談するものではありません。信用保証を含む制度融資には、認定や審査に時間がかかります。追い詰められてから動いても、間に合わないことがあるのです。
当メディアでお伝えしたとおり、開業1年目の廃業の多くは赤字そのものではなく資金切れで起こります。事業として成り立っていても、手元の現金が尽きれば止まってしまう。だから資金の余裕は、平時に確保しておくものです。
自事業所の資金残高が、固定費の何か月分あるか。答えられるでしょうか。人件費と家賃だけでも、月に130万円から160万円が出ていく事業です。売上が数か月落ち込んだときに耐えられる厚みがあるかを、いま確かめておく価値があります。
制度融資は、金融機関から見た借入のしやすさを高める仕組みです。使う予定がなくても、枠を確保しておくという考え方もあります。
活用を検討するなら、相談の順序があります。
最初に、市区町村の商工担当窓口です。セーフティネット保証5号の認定を行うのは市区町村ですから、要件と必要書類をここで確認します。
次に、取引のある金融機関です。融資の相談と並行して、保証制度の活用について話を進めます。事前相談は6月11日から信用保証協会でも受け付けられています。
そして、日本政策金融公庫という選択肢もあります。当メディアでお伝えしたとおり、新規開業資金は最大7,200万円まで、無担保無保証人で利用できる可能性があります。既存の事業所であっても、運転資金の相談は可能です。
税理士や、地域の商工会議所に相談するという道もあります。制度の名前を知っているだけでは活用できません。自事業所の状況に照らして、どの制度が使えるのかを一緒に考えてくれる相手を持っておくことが大切です。
今回の業種指定には期限があります。2026年7月1日から9月30日まで。四半期ごとに見直されるため、次期に継続して指定されるかは現時点では分かりません。
もし資金の手当てを検討しているなら、指定期間内に動いておくほうが確実です。認定の手続きにも時間がかかりますから、9月に入ってから慌てるのでは間に合わない可能性があります。
看護業が業況悪化業種に指定されたという事実は、業界にとって明るい知らせではありません。それでも、使える制度が用意されているという意味では、活かすべき情報です。収支差率の平均値だけでは測れない現実の中で、それぞれの事業所が資金を確保し、事業を続けていくこと。地域の在宅医療を支えるには、まず事業所自身が存続しなければなりません。制度の情報を知っておくこと自体が、経営の備えになります。