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訪問看護師の安全をどう守るか|2026年6月の厚労省通知が示す在宅介護従事者へのハラスメント問題と業界の課題

HokanPress編集部 · 2026年6月13日
2026年6月4日、全国訪問看護事業協会が「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」の通知を周知しました。訪問看護師を含む在宅介護従事者への暴言・暴力・ハラスメント問題は、業界全体の構造的課題として認識が広がっています。HokanPress編集部が、通知の内容、業界の実態、経営者と看護師双方が取るべき対応を整理しました。

2026年6月4日、一般社団法人全国訪問看護事業協会のウェブサイトで重要な情報が周知されました。タイトルは「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」。これは厚生労働省から発出された通知の周知であり、訪問看護師を含む在宅介護従事者への安全確保が、国レベルの政策課題として明確に位置づけられたことを示しています。

訪問看護師は、1人で利用者宅を訪問する業務形態です。病院のような集団環境とは異なり、利用者・ご家族との濃密な関係構築が求められる一方、暴言・暴力・ハラスメントといった安全リスクに、個人で対峙せざるを得ない構造があります。

日本看護協会も2025年10月の全国労働衛生週間に合わせて、看護職への暴言・暴力・ハラスメントに関する会長メッセージを発信するなど、業界団体としての継続的な対応が進んでいます。

HokanPress編集部では、訪問看護師の安全確保をめぐる業界の現状、2026年6月の厚労省通知が示す方向性、経営者・管理者・現場看護師双方が取るべき対応について整理しました。本記事は、訪問看護関係者だけでなく、利用者・ご家族、地域社会の方々にも理解いただきたい内容です。

2026年6月の通知の概要

まず、2026年6月4日に周知された通知の概要を確認します。

通知の位置づけ

通知のタイトルは「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」です。

通知の対象範囲:

  • 介護支援専門員(ケアマネジャー)
  • 訪問介護員(ヘルパー)
  • 訪問看護師
  • その他の在宅介護従事者

これら在宅で業務を行う全ての専門職が、安全確保の対象として位置づけられています。

周知の背景

通知が発出された背景には、複数の構造的問題があります。

主な背景:

  • 在宅介護従事者へのハラスメント事案の継続
  • 暴言・暴力被害の報告
  • 個人での対応の限界
  • 業界団体からの要望継続
  • 人材確保への影響

これらが重なり、国レベルでの対応が必要との判断につながりました。

通知の意義

国としての通知が発出されることの意義は、複数あります。

意義の整理:

  • 業界全体の問題として認識
  • 事業所の責任の明確化
  • 行政の関与の制度化
  • 警察等との連携の根拠
  • 業界全体の意識向上

「個別事業所の問題」から「業界・社会全体の課題」への位置づけ転換が、通知の本質的な意義です。

訪問看護師が直面する安全リスク

訪問看護師が日常業務で直面する安全リスクを整理します。

リスク1: 暴言・威圧

最も頻度が高いのが、利用者・ご家族からの暴言・威圧です。

具体的な状況:

  • 業務遂行への暴言
  • 看護師個人への人格否定
  • 大声での威圧
  • 性的な発言
  • 差別的な発言

これらは、看護師の精神的健康に深刻な影響を与えます。

リスク2: 身体的危険

頻度は低いものの、身体的危険を伴うケースもあります。

身体的危険の例:

  • 物を投げつけられる
  • 押される、つかまれる
  • 物理的な威嚇
  • 認知症等による予測困難な行動
  • 利用者の不安定な精神状態

身体的危険は、看護師の安全に直接関わる重大なリスクです。

リスク3: ハラスメント

性的ハラスメント、パワーハラスメント、その他の形態のハラスメントも報告されています。

ハラスメントの種類:

  • セクシュアルハラスメント
  • パワーハラスメント
  • マタニティハラスメント
  • 個人情報を盾にした圧力
  • 過度な要求

訪問看護師は1対1の関係性が多いため、ハラスメントを目撃する第三者がいない構造的問題があります。

リスク4: 心理的負担

直接的な被害がなくても、心理的負担は継続的に発生します。

心理的負担の要素:

  • 訪問前の緊張
  • 過去のトラブル経験の影響
  • 同僚の経験の共有による不安
  • 1人での対応の重圧
  • 安全への継続的な警戒

これらの心理的負担が、バーンアウトや離職の要因となります。

リスク5: 経済的・法的リスク

被害が発生した場合、看護師個人が経済的・法的リスクを負うケースもあります。

経済的・法的リスク:

  • 医療材料の損壊
  • 個人物品の盗難・損壊
  • 訴訟リスク
  • 賠償責任
  • 名誉毀損

事業所としての保険・サポート体制がないと、看護師個人の負担が大きくなります。

業界としての対応の現状

訪問看護業界として、安全確保への対応はどこまで進んでいるでしょうか。

大手・機能強化型事業所の対応

大手事業所や機能強化型事業所では、安全確保への組織的な対応が進んでいます。

主な対応:

  • 訪問前のリスクアセスメント
  • 複数名訪問の選択肢
  • GPS機能付き端末の活用
  • 緊急時連絡網の整備
  • 警察との連携体制
  • 賠償責任保険の充実
  • スタッフへの研修

これらの体制構築が、看護師の安心と質の高いサービス提供を支えています。

中小事業所の課題

一方、中小事業所では対応に遅れがあるケースが多く見受けられます。

遅れの構造:

  • 体制構築のコスト負担
  • スタッフ数の不足
  • 経営者・管理者の意識
  • 業務マニュアルの未整備
  • 連携先との関係構築不足

中小事業所での体制整備が、業界全体の課題となっています。

業界団体の取り組み

業界団体としても、継続的な取り組みを進めています。

主な取り組み:

  • ガイドラインの整備
  • 研修プログラムの提供
  • 相談窓口の設置
  • 行政への要望
  • 加盟事業所への情報提供
  • 賠償責任保険の提供

業界団体の活動が、個別事業所での対応を支える基盤となっています。

行政の対応

国・自治体レベルでも、対応の本格化が進んでいます。

行政の対応:

  • 安全確保通知の発出
  • 制度的支援の検討
  • 警察との連携枠組み
  • 実態調査の実施
  • 業界団体との協議

2026年6月の通知も、こうした流れの一環として位置づけられます。

経営者・管理者が整備すべき体制

訪問看護ステーション経営者・管理者として、整備すべき体制を整理します。

体制1: リスクアセスメントの仕組み

利用者ごとのリスクアセスメントを、システマティックに実施します。

アセスメント項目:

  • 過去のトラブル履歴
  • 利用者の精神状態
  • ご家族の関係性
  • 居住環境
  • 周辺地域の状況
  • 緊急時のアクセス

これらを記録し、訪問前に確認できる仕組みが、安全確保の基本となります。

体制2: 訪問前後の連絡体制

訪問前後の連絡体制を、明確に整備します。

連絡体制の要素:

  • 訪問開始時の連絡
  • 訪問終了時の連絡
  • 緊急時の即時連絡
  • 連絡が途絶えた場合の対応
  • GPS等での位置確認

「連絡が途絶えたら異常」と認識される仕組みが、看護師の安全を支えます。

体制3: 複数名訪問の選択肢

リスクが高いと判断される場合、複数名訪問の選択肢を確保します。

複数名訪問の判断基準:

  • 過去のトラブル履歴
  • 利用者の状態(認知症、精神疾患等)
  • 初回訪問
  • 医療処置の安全確保
  • 看護師の個別事情への配慮

複数名訪問加算の活用も含めて、組織的に対応します。

体制4: 緊急時対応マニュアル

緊急時の対応マニュアルを整備し、スタッフに周知します。

マニュアルの内容:

  • 暴言・威圧時の対応
  • 身体的危険時の即時避難
  • 警察への通報基準
  • 上司への連絡手順
  • 利用者・家族への対応
  • 記録の作成と保存

定期的な訓練と見直しも重要です。

体制5: スタッフへの研修

スタッフへの継続的な研修が、現場での適切な対応を支えます。

研修内容:

  • リスクアセスメントの実施方法
  • 暴言・暴力への対応技術
  • ハラスメントへの対応
  • 心理的サポート
  • 法的知識
  • 報告・相談の重要性

「個人で抱え込まず、組織で対応する」文化の構築が、研修の本質的な目的です。

体制6: 心理的サポート体制

被害を受けたスタッフへの心理的サポート体制も不可欠です。

サポートの内容:

  • 即時の話を聞く体制
  • カウンセリングへの接続
  • 業務調整(該当利用者の担当変更等)
  • 休暇取得の支援
  • 復帰支援
  • 継続的なフォロー

「被害は被害者の責任ではない」というメッセージを、組織として明確に発信することが重要です。

体制7: 利用者・家族との関係管理

利用者・家族との関係管理も、経営者の重要な役割です。

関係管理の要素:

  • 契約時のルール明示
  • 看護師への適切な接遇の要請
  • トラブル時の利用者への対応
  • 必要に応じた利用契約の見直し
  • ケアマネジャーとの連携

「利用者だから何をしても許される」という構造を、事業者として許さない姿勢が必要です。

現場看護師としての対応

現場で訪問看護を提供する看護師個人としての対応も、整理します。

対応1: 「我慢しない」という意識

最も重要な意識は、「被害を我慢しない」ということです。

意識の転換:

  • 「これくらい大丈夫」と思わない
  • 「自分の対応が悪かった」と自責しない
  • 「報告しても変わらない」と諦めない
  • 「他の人もやっている」と思わない
  • 「自分の責任ではない」と認識する

被害は被害者の責任ではありません。

対応2: 即時の報告

被害が発生した場合、できる限り即時に報告します。

報告のポイント:

  • 上司・管理者への即時連絡
  • 具体的な状況の記録
  • 客観的事実の整理
  • 自身の心身状態の伝達
  • 必要なサポートの要請

「面倒だから後で」ではなく、「即時に」が重要です。

対応3: 記録の作成

被害状況の記録を、客観的に作成します。

記録すべき内容:

  • 日時・場所
  • 関係者
  • 具体的な発言・行動
  • 自身の対応
  • 周囲の状況
  • 心身への影響

これらの記録が、後の対応の根拠となります。

対応4: 自身の安全を最優先

業務継続より、自身の安全を最優先します。

優先すべき判断:

  • 身体的危険を感じたら即時退去
  • 「業務完了」より「安全確保」
  • 緊急時は警察への通報
  • 自身の限界を超える前に支援要請
  • 心身の異常を感じたら休む

「責任感」が自分を危険にさらすことはあってはなりません。

対応5: 心理的ケアを受ける

被害を受けた後の心理的ケアを、積極的に受けます。

ケアの選択肢:

  • 事業所内のサポート
  • 産業医・カウンセラーへの相談
  • 業界団体の相談窓口
  • 専門医療機関
  • 家族・友人への相談

一人で抱え込まないことが、回復への第一歩です。

利用者・ご家族への配慮

訪問看護を利用される方々への配慮も、忘れてはなりません。

多くの利用者は適切

まず重要なのは、訪問看護を利用する大多数の方々は、適切な関係を築いている事実です。

事実の整理:

  • 適切な接遇の利用者・家族が大多数
  • 看護師への感謝の声も多い
  • 長期的な信頼関係の構築
  • 多職種連携での協力
  • 地域コミュニティでの支え合い

特定の問題ケースで、全体を判断してはなりません。

利用者にも配慮が必要な場合

一方、利用者の状態によっては配慮が必要なケースもあります。

配慮が必要な状態:

  • 認知症による予測困難な行動
  • 精神疾患による不安定な状態
  • 急性の身体症状による苛立ち
  • 死別等の喪失体験
  • 長期介護による疲労

これらは「故意の加害」とは区別して、専門的な対応が必要です。

ご家族との協力

ご家族との協力も、安全確保の重要な要素です。

協力の内容:

  • 利用者の状態についての情報共有
  • 訪問時の立会いの調整
  • 緊急時の連絡
  • 看護師への適切な接遇の維持
  • トラブル時の事業所への協力

ご家族の理解と協力が、安全な訪問看護を支えます。

利用者の権利との両立

ただし、安全確保と利用者の権利は両立させる必要があります。

両立の視点:

  • 利用者の選択権の尊重
  • 適切な看護の継続
  • 過度な制限の回避
  • 信頼関係の維持
  • 個別状況への配慮

「安全確保」を理由に利用者の権利を侵害することは、あってはなりません。

業界の長期的な方向性

訪問看護師の安全確保をめぐる業界の長期的な方向性を整理します。

短期的な方向性(2026年〜2027年)

短期的には、2026年6月通知に基づく対応が業界全体で進む時期となります。

予想される動き:

  • 事業所での体制整備
  • スタッフ研修の本格化
  • 業界団体ガイドラインの活用
  • 行政との連携強化
  • 実態調査の実施

通知の実効性を高める各種の取り組みが進みます。

中期的な方向性(2027年〜2030年)

2027年通常改定を経て、制度的な対応も進む可能性があります。

予想される変化:

  • 安全確保への加算評価
  • 賠償責任保険の充実
  • 警察・法務省との連携深化
  • 専門研修の標準化
  • 業界全体の意識向上

「個人で対応」から「組織・業界・社会で対応」への構造転換が進みます。

長期的な方向性(2030年以降)

長期的には、訪問看護師の社会的地位向上にもつながる流れです。

長期的な姿:

  • 安全に働ける環境の確立
  • 看護師の専門職としての尊重
  • 業界全体の社会的価値向上
  • 看護師の継続的就業の促進
  • 業界の持続可能性確保

安全確保は、業界の持続可能性そのものに直結する課題です。

経営者として持つべき視点

最後に、経営者として持つべき視点を整理します。

視点1: 安全確保は経営の最優先課題

スタッフの安全確保は、経営の最優先課題です。

優先順位:

  • 経営者の最優先業務
  • 投資の優先対象
  • スタッフへのメッセージ
  • 組織文化の中核
  • 経営判断の前提

「業績」より「スタッフの安全」を優先する姿勢が、結果として業績向上にもつながります。

視点2: 「個人問題」ではなく「組織問題」

ハラスメント・暴力被害を、個人問題として扱わないことが重要です。

組織問題としての認識:

  • 組織全体での対応
  • 経営者の責任
  • 制度的な防止策
  • 継続的な改善
  • 業界全体への発信

「我慢する文化」を組織から排除することが、経営者の役割です。

視点3: 被害者を守る姿勢

被害が発生した場合、被害者を守る姿勢が問われます。

守る姿勢の要素:

  • 即時のサポート
  • 業務調整
  • 心理的ケア
  • 復帰支援
  • 評価への配慮

被害を受けたスタッフが「報告してよかった」と思える組織が、信頼される組織です。

視点4: 業界全体への貢献

自ステーションの取り組みが、業界全体への貢献につながる視点も大切です。

貢献の方向性:

  • グッドプラクティスの共有
  • 業界団体への参加
  • 行政への意見表明
  • メディアでの発信
  • 後進への指導

業界全体の安全確保レベル向上が、すべての訪問看護師を守ります。

視点5: 持続可能な経営の基盤

最終的に、安全確保は持続可能な経営の基盤です。

持続可能性の要素:

  • スタッフの定着
  • 質の高いサービス提供
  • 利用者・連携先からの信頼
  • 経営の安定
  • 後継者への引き継ぎ

「安全に働ける職場」が、持続可能な経営を支えます。

まとめ

2026年6月4日の通知「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」は、訪問看護師を含む在宅介護従事者への暴言・暴力・ハラスメント問題が、国レベルの政策課題として位置づけられたことを示す重要な動きです。

訪問看護師は、1人で訪問する業務形態のため、安全リスク(暴言・威圧、身体的危険、ハラスメント、心理的負担、経済的・法的リスク)に個人で対峙せざるを得ない構造があります。

経営者・管理者として、リスクアセスメント、訪問前後の連絡体制、複数名訪問の選択肢、緊急時対応マニュアル、スタッフ研修、心理的サポート体制、利用者・家族との関係管理——7つの体制整備を、着実に進めることが求められます。

現場看護師としては、「我慢しない」意識、即時の報告、客観的記録の作成、自身の安全の最優先、心理的ケアの受け入れが、自分自身を守る基本となります。

利用者・ご家族の多くは適切な関係を築いており、特定の問題ケースで全体を判断してはなりません。利用者の状態への配慮、ご家族との協力、利用者の権利との両立が、安全確保と並行して進められる必要があります。

業界の長期的な方向性として、短期的な体制整備、中期的な制度対応、長期的な看護師の社会的地位向上が見えています。経営者として、安全確保を最優先課題と認識し、組織問題として対応し、被害者を守る姿勢を持ち、業界全体への貢献を意識し、持続可能な経営の基盤として位置づけることが、これからの時代に求められる視点です。

訪問看護師が安心して働ける業界へ。地域社会と連携しながら、すべての訪問看護師の安全と尊厳が守られる環境を作っていきたいと考えます。

HokanPress編集部では、訪問看護業界の本質的な課題について、引き続き発信してまいります。

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