2026年6月4日、一般社団法人全国訪問看護事業協会のウェブサイトで重要な情報が周知されました。タイトルは「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」。これは厚生労働省から発出された通知の周知であり、訪問看護師を含む在宅介護従事者への安全確保が、国レベルの政策課題として明確に位置づけられたことを示しています。
訪問看護師は、1人で利用者宅を訪問する業務形態です。病院のような集団環境とは異なり、利用者・ご家族との濃密な関係構築が求められる一方、暴言・暴力・ハラスメントといった安全リスクに、個人で対峙せざるを得ない構造があります。
日本看護協会も2025年10月の全国労働衛生週間に合わせて、看護職への暴言・暴力・ハラスメントに関する会長メッセージを発信するなど、業界団体としての継続的な対応が進んでいます。
HokanPress編集部では、訪問看護師の安全確保をめぐる業界の現状、2026年6月の厚労省通知が示す方向性、経営者・管理者・現場看護師双方が取るべき対応について整理しました。本記事は、訪問看護関係者だけでなく、利用者・ご家族、地域社会の方々にも理解いただきたい内容です。
まず、2026年6月4日に周知された通知の概要を確認します。
通知のタイトルは「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」です。
通知の対象範囲:
これら在宅で業務を行う全ての専門職が、安全確保の対象として位置づけられています。
通知が発出された背景には、複数の構造的問題があります。
主な背景:
これらが重なり、国レベルでの対応が必要との判断につながりました。
国としての通知が発出されることの意義は、複数あります。
意義の整理:
「個別事業所の問題」から「業界・社会全体の課題」への位置づけ転換が、通知の本質的な意義です。
訪問看護師が日常業務で直面する安全リスクを整理します。
最も頻度が高いのが、利用者・ご家族からの暴言・威圧です。
具体的な状況:
これらは、看護師の精神的健康に深刻な影響を与えます。
頻度は低いものの、身体的危険を伴うケースもあります。
身体的危険の例:
身体的危険は、看護師の安全に直接関わる重大なリスクです。
性的ハラスメント、パワーハラスメント、その他の形態のハラスメントも報告されています。
ハラスメントの種類:
訪問看護師は1対1の関係性が多いため、ハラスメントを目撃する第三者がいない構造的問題があります。
直接的な被害がなくても、心理的負担は継続的に発生します。
心理的負担の要素:
これらの心理的負担が、バーンアウトや離職の要因となります。
被害が発生した場合、看護師個人が経済的・法的リスクを負うケースもあります。
経済的・法的リスク:
事業所としての保険・サポート体制がないと、看護師個人の負担が大きくなります。
訪問看護業界として、安全確保への対応はどこまで進んでいるでしょうか。
大手事業所や機能強化型事業所では、安全確保への組織的な対応が進んでいます。
主な対応:
これらの体制構築が、看護師の安心と質の高いサービス提供を支えています。
一方、中小事業所では対応に遅れがあるケースが多く見受けられます。
遅れの構造:
中小事業所での体制整備が、業界全体の課題となっています。
業界団体としても、継続的な取り組みを進めています。
主な取り組み:
業界団体の活動が、個別事業所での対応を支える基盤となっています。
国・自治体レベルでも、対応の本格化が進んでいます。
行政の対応:
2026年6月の通知も、こうした流れの一環として位置づけられます。
訪問看護ステーション経営者・管理者として、整備すべき体制を整理します。
利用者ごとのリスクアセスメントを、システマティックに実施します。
アセスメント項目:
これらを記録し、訪問前に確認できる仕組みが、安全確保の基本となります。
訪問前後の連絡体制を、明確に整備します。
連絡体制の要素:
「連絡が途絶えたら異常」と認識される仕組みが、看護師の安全を支えます。
リスクが高いと判断される場合、複数名訪問の選択肢を確保します。
複数名訪問の判断基準:
複数名訪問加算の活用も含めて、組織的に対応します。
緊急時の対応マニュアルを整備し、スタッフに周知します。
マニュアルの内容:
定期的な訓練と見直しも重要です。
スタッフへの継続的な研修が、現場での適切な対応を支えます。
研修内容:
「個人で抱え込まず、組織で対応する」文化の構築が、研修の本質的な目的です。
被害を受けたスタッフへの心理的サポート体制も不可欠です。
サポートの内容:
「被害は被害者の責任ではない」というメッセージを、組織として明確に発信することが重要です。
利用者・家族との関係管理も、経営者の重要な役割です。
関係管理の要素:
「利用者だから何をしても許される」という構造を、事業者として許さない姿勢が必要です。
現場で訪問看護を提供する看護師個人としての対応も、整理します。
最も重要な意識は、「被害を我慢しない」ということです。
意識の転換:
被害は被害者の責任ではありません。
被害が発生した場合、できる限り即時に報告します。
報告のポイント:
「面倒だから後で」ではなく、「即時に」が重要です。
被害状況の記録を、客観的に作成します。
記録すべき内容:
これらの記録が、後の対応の根拠となります。
業務継続より、自身の安全を最優先します。
優先すべき判断:
「責任感」が自分を危険にさらすことはあってはなりません。
被害を受けた後の心理的ケアを、積極的に受けます。
ケアの選択肢:
一人で抱え込まないことが、回復への第一歩です。
訪問看護を利用される方々への配慮も、忘れてはなりません。
まず重要なのは、訪問看護を利用する大多数の方々は、適切な関係を築いている事実です。
事実の整理:
特定の問題ケースで、全体を判断してはなりません。
一方、利用者の状態によっては配慮が必要なケースもあります。
配慮が必要な状態:
これらは「故意の加害」とは区別して、専門的な対応が必要です。
ご家族との協力も、安全確保の重要な要素です。
協力の内容:
ご家族の理解と協力が、安全な訪問看護を支えます。
ただし、安全確保と利用者の権利は両立させる必要があります。
両立の視点:
「安全確保」を理由に利用者の権利を侵害することは、あってはなりません。
訪問看護師の安全確保をめぐる業界の長期的な方向性を整理します。
短期的には、2026年6月通知に基づく対応が業界全体で進む時期となります。
予想される動き:
通知の実効性を高める各種の取り組みが進みます。
2027年通常改定を経て、制度的な対応も進む可能性があります。
予想される変化:
「個人で対応」から「組織・業界・社会で対応」への構造転換が進みます。
長期的には、訪問看護師の社会的地位向上にもつながる流れです。
長期的な姿:
安全確保は、業界の持続可能性そのものに直結する課題です。
最後に、経営者として持つべき視点を整理します。
スタッフの安全確保は、経営の最優先課題です。
優先順位:
「業績」より「スタッフの安全」を優先する姿勢が、結果として業績向上にもつながります。
ハラスメント・暴力被害を、個人問題として扱わないことが重要です。
組織問題としての認識:
「我慢する文化」を組織から排除することが、経営者の役割です。
被害が発生した場合、被害者を守る姿勢が問われます。
守る姿勢の要素:
被害を受けたスタッフが「報告してよかった」と思える組織が、信頼される組織です。
自ステーションの取り組みが、業界全体への貢献につながる視点も大切です。
貢献の方向性:
業界全体の安全確保レベル向上が、すべての訪問看護師を守ります。
最終的に、安全確保は持続可能な経営の基盤です。
持続可能性の要素:
「安全に働ける職場」が、持続可能な経営を支えます。
2026年6月4日の通知「介護支援専門員等の在宅介護従事者の安全確保の徹底について」は、訪問看護師を含む在宅介護従事者への暴言・暴力・ハラスメント問題が、国レベルの政策課題として位置づけられたことを示す重要な動きです。
訪問看護師は、1人で訪問する業務形態のため、安全リスク(暴言・威圧、身体的危険、ハラスメント、心理的負担、経済的・法的リスク)に個人で対峙せざるを得ない構造があります。
経営者・管理者として、リスクアセスメント、訪問前後の連絡体制、複数名訪問の選択肢、緊急時対応マニュアル、スタッフ研修、心理的サポート体制、利用者・家族との関係管理——7つの体制整備を、着実に進めることが求められます。
現場看護師としては、「我慢しない」意識、即時の報告、客観的記録の作成、自身の安全の最優先、心理的ケアの受け入れが、自分自身を守る基本となります。
利用者・ご家族の多くは適切な関係を築いており、特定の問題ケースで全体を判断してはなりません。利用者の状態への配慮、ご家族との協力、利用者の権利との両立が、安全確保と並行して進められる必要があります。
業界の長期的な方向性として、短期的な体制整備、中期的な制度対応、長期的な看護師の社会的地位向上が見えています。経営者として、安全確保を最優先課題と認識し、組織問題として対応し、被害者を守る姿勢を持ち、業界全体への貢献を意識し、持続可能な経営の基盤として位置づけることが、これからの時代に求められる視点です。
訪問看護師が安心して働ける業界へ。地域社会と連携しながら、すべての訪問看護師の安全と尊厳が守られる環境を作っていきたいと考えます。
HokanPress編集部では、訪問看護業界の本質的な課題について、引き続き発信してまいります。