訪問看護の仕事で、意外と頭を悩ませるのが駐車です。
利用者さんのお宅に駐車場がない。近くにコインパーキングもない。あっても満車。細い路地で、停めれば通行の邪魔になる。それでも訪問の時間は決まっていて、遅れるわけにはいきません。
やむを得ず路上に停めて、訪問の最中ずっと気にしている。そんな経験のある方は少なくないと思います。
実は、こうした場合に使える制度があります。しかも2025年7月から、運用が全国で統一されました。今日はその話をします。
道路交通法の第45条第1項に、ただし書きという部分があります。駐車禁止の規制が行われている場所であっても、駐車せざるを得ない特別の事情がある場合には、警察署長が駐車を許可できるという規定です。
警察庁の説明によれば、特別の事情への配慮の必要性と、駐車規制の必要性とを比べて、前者が上回るときに許可されるとされています。そして許可の対象は特定の用務に限定されず、貨物の集配や訪問診療、訪問介護等に使用する車両も対象となり得ると明記されています。
訪問看護の車も、この対象に含まれます。
千葉県の案内には、訪問診療や訪問看護等に使用する車両が訪問先に駐車場所がないために駐車禁止場所に駐車せざるを得ない場合、警察署長の駐車許可を受けることが可能となっている、と書かれています。同じ趣旨の案内を出している自治体は他にもあります。
この制度、以前から存在してはいたのですが、運用が都道府県や警察署によってばらついていました。申請の書式が違う、審査の基準が違う、許可の期間が違う。
そこで警察庁が通達を出し、2025年7月1日から新しい運用が始まりました。背景には、いわゆる物流2024問題を受けた短時間駐車への対応の必要性と、2024年6月に閣議決定された規制改革実施計画があります。訪問看護等に係る駐車の需要にも引き続き適切に対応していく必要があるとの認識が、そこには示されています。
統一された内容のうち、現場に関わるものを挙げます。
一つ目が、他に駐車できる場所があるかどうかを確認する範囲です。近隣に路外駐車場や路上駐車場、駐車が禁止されていない道路部分がなく、これらの利用が困難な場合に許可されるという枠組みですが、その近隣の範囲が「おおむね100メートル以内」と全国的に統一されました。
二つ目が、申請の手続きです。申請書と添付書類を含めて、運用が全国で統一されました。
三つ目が、許可証の有効期間です。反復継続的な用務に係る許可証については、原則として1年以上とすることで統一されました。毎月何度も申請し直す必要がなくなります。
四つ目が、審査で留意すべき事項の明確化です。通学路やバス路線ではないか、といった点が挙げられています。
駐車許可とは別に、駐車規制からの除外措置という仕組みもあります。除外標章を交付してもらう形です。
今回の見直しでは、医師の指示を受けた看護師や助産師などが患者宅等を緊急訪問するための車両が、この除外措置の対象となり得ることが明確化されました。
警視庁の案内を見ると、事業者向けの駐車禁止除外指定車として複数の類型が挙げられており、そのなかには助産師が緊急訪問のため使用中の車両も含まれています。申請には医療機関名の記載された書面や看護師免許証が必要とされます。
計画的な訪問には駐車許可、緊急の訪問には除外標章。そういう整理で考えると分かりやすいかもしれません。ただし詳しい取り扱いは地域によって異なりますので、管轄の警察署に確認してください。
実際に申請を考えるなら、いくつか押さえておきたい点があります。
まず、事前に相談することです。駐車許可は都道府県警察や警察署ごとに、地域住民の意見や交通の実態に応じて運用されています。申請の前に、駐車する場所を管轄する警察署の交通課に相談しておくと、手続きがスムーズに進みます。
次に、添付書類についてです。申請の際には用務を疎明する資料が必要になりますが、患者さんの個人情報保護の観点から、病名を記載した書面等は提出不要とされています。この点は安心してよいところだと思います。
そして、不正使用は厳しく扱われるという点です。許可証や標章の不正な使用には、積極的な検挙、許可の取消し、車両の使用制限命令の検討など、厳正に対処するとされています。訪問以外の用事で使うようなことは、当然できません。
ここは間違えやすいところなので、はっきりお伝えしておきます。
駐車許可を受けていても、除外標章を掲げていても、法律で定められた駐停車禁止場所には駐車できません。消防車の進入口の前などがこれにあたります。
警視庁も、除外標章を掲出しても駐車することができない場所についての案内を出しています。許可証があればどこでも停められる、という理解は誤りです。
制度の話をしてきましたが、日々の実務では、その前にできることもあります。
契約のときに、利用者さんやご家族に停める場所を確認しておくこと。ご自宅に駐車スペースがあれば、そこを使わせていただけるか。なければ、近くのコインパーキングの場所を把握しておく。
避けたいのは、近くのスーパーやコンビニの駐車場に無断で停めることです。その店舗に迷惑をかけることになりますし、事業所の信用にも関わります。
有料駐車場を使った場合の料金を利用者さんから徴収できるかどうかは、契約や重要事項説明書での取り決め次第になります。曖昧なまま運用していると、後で行き違いが生じますので、事業所として整理しておいたほうがよいでしょう。
以前の記事で車両の管理について扱った際に、スタッフが業務中に起こした事故は事業所の賠償責任になるとお伝えしました。駐車の問題も同じで、担当者の個人的な工夫に任せるのではなく、事業所として方針を決めておく領域だと思います。
最後に、なぜこの話が経営にも関わるのかを書いておきます。
以前お伝えしたとおり、訪問看護の収益は、勤務時間のうちどれだけを訪問に充てられるかで決まります。停める場所を探して周辺を何周もする時間、駐車違反を心配しながら急いで訪問する緊張、そして万一の反則金。どれも、本来のケアには使われていない時間とコストです。
都市部で訪問件数を確保するうえで、駐車の問題は無視できない要素になります。よく訪問するエリアで駐車許可を取っておけば、その分だけ移動の時間が短くなる。地味な改善ですが、積み重なれば効いてきます。
停める場所がない。この悩みは、訪問看護をしている限りついて回ります。それでも、使える制度があることを知っているかどうかで、日々の負担は変わってきます。
管轄の警察署に一本電話をかけてみる。それだけで、進む話かもしれません。