訪問看護ステーションを含む全介護事業所に、2024年4月からBCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)の策定・運用が義務化されました。さらに、一般社団法人全国訪問看護事業協会のウェブサイトでは、2026年6月2日に「梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について」の通知が周知されており、災害対策の実効性が改めて問われています。
「BCPは大企業のためのもの」「うちのような小規模ステーションには関係ない」——こうした認識を持つ経営者は、現在ではもう少数派になっているはずです。実際に、自然災害の頻発、感染症の流行、システムトラブルなど、訪問看護の現場が直面するリスクは年々多様化しています。BCPは「義務だから作る書類」ではなく、「経営と利用者・スタッフを守る実践的な仕組み」として位置づける視点が、これからの経営者には求められます。
私自身、訪問看護ステーション経営者として、BCP策定への取り組みを段階的に進めてきました。「形式的に作って終わり」では意味がなく、「実際に使える計画」として機能させるには、組織的な取り組みが必要です。本記事では、訪問看護におけるBCP策定の実務ポイントを、率直に整理します。
まず、なぜ訪問看護を含む介護事業所でBCPが義務化されたのか、整理します。
BCPの義務化は、複数の経緯を経て実現しました。
主な経緯:
3年間の経過措置期間を経て、本格的な義務化となりました。
日本の災害多発の現実が、BCPの必要性を高めています。
近年の主な災害:
「いつかは大丈夫」ではなく「いつ起きてもおかしくない」前提での備えが必要です。
訪問看護には、災害対応における独自の特殊性があります。
特殊性の要素:
「事業所が無事でも訪問できない」「利用者宅が被災」など、複層的なリスク管理が必要です。
BCP策定の義務は、通常型・機能強化型共通です。
共通の義務:
「機能強化型だから手厚く」「通常型だから簡素に」という構造ではなく、全事業所共通の義務です。
BCP未策定の場合、報酬減算の対象となります。
減算の構造:
「BCPを作らない」選択肢は、もはや経済合理性すらない構造です。
訪問看護のBCPには、複数の要素を含める必要があります。
まず、自ステーションが直面するリスクを明確化します。
想定すべきリスク:
自ステーションの地域特性に応じた、現実的なリスク想定が必要です。
リスク発生時に継続すべき業務の優先順位を明確化します。
優先順位の例:
すべての業務を同時に維持するのは不可能なため、優先順位の事前明確化が重要です。
スタッフの安否確認の仕組みも、BCPの核心です。
安否確認の仕組み:
「スタッフが無事でなければ業務は継続できない」前提での仕組みが必要です。
利用者の安否確認体制も、訪問看護独自の重要要素です。
安否確認の体制:
医療依存度の高い利用者を中心に、優先的に確認する体制が必要です。
物資・設備の確保も、BCPの重要要素です。
確保すべき物資:
「日常の在庫」では不十分です。災害時に備えた追加備蓄が必要です。
連携先との関係も、BCPに組み込みます。
連携の対象:
「単独事業所だけでは限界がある」という認識のもと、地域連携を組み込みます。
最後に、復旧計画もBCPの一部です。
復旧計画の要素:
「災害が終わったら自動的に元に戻る」のではなく、計画的な復旧プロセスが必要です。
災害対策BCPと並行して、感染症対策BCPも重要です。
感染症対策は、自然災害とは異なる独自の要素があります。
独自要素:
新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた、現実的な計画が必要です。
スタッフが感染した場合の対応も、明確化しておく必要があります。
対応の要素:
「個人の問題」ではなく「組織的な対応」として整備します。
利用者が感染した場合の対応も、計画しておきます。
対応の要素:
「訪問拒否」ではなく「安全に訪問継続する」体制が、訪問看護の使命です。
感染症対策物資の備蓄も、BCPの重要要素です。
備蓄すべき物資:
2020年〜2022年の経験を活かした、現実的な備蓄計画が必要です。
感染症対策には、風評被害への対応も含まれます。
対応の要素:
冷静で誠実な情報発信が、信頼を維持する基盤です。
BCP策定の実務ステップを、整理します。
まず、経営者・管理者のコミットメントが出発点です。
コミットメントの要素:
「形式的に作る」のではなく「本気で機能させる」姿勢が、すべての出発点です。
自ステーションが直面するリスクを、客観的にアセスメントします。
アセスメントの要素:
地域のハザードマップなどを活用した、現実的な評価が必要です。
リスクアセスメントを踏まえて、計画書を作成します。
計画書の構成:
「テンプレートを埋める」ではなく「自ステーションに即した内容」を作成します。
完成した計画を、スタッフに周知します。
周知の方法:
「計画書は管理者の机の中」ではなく「全スタッフが理解している」状態を目指します。
定期的な訓練の実施も、BCPの重要要素です。
訓練の例:
年1回以上の訓練が、計画の実効性を担保します。
訓練や実際の経験を踏まえて、計画を継続的に見直します。
見直しのタイミング:
「一度作ったら終わり」ではなく「進化し続ける計画」が、BCPの本質です。
BCP策定に向き合う経営者として、持つべき視点を整理します。
BCPを「義務だから作る」と捉えるか、「経営の本質」と捉えるかで、計画の質が大きく異なります。
経営の本質としてのBCP:
「報酬減算を避けるため」ではない、本質的な動機が、計画の実効性を支えます。
BCP策定では、「想定外」を想定する視点も重要です。
「想定外」への準備:
「最悪のシナリオ」を想定した計画が、現実への対応力を生みます。
BCPは、自ステーション単独では完結しません。
地域連携の要素:
「地域全体で支え合う」発想が、災害対応の実効性を高めます。
BCP関連の投資を、「コスト」ではなく「投資」と捉えることも重要です。
投資の対象:
「いざという時の備え」への投資は、経営の持続可能性への投資です。
最後に、スタッフ・利用者への責任を果たす視点が、BCPの根底です。
責任の内容:
「経営者として何をすべきか」を、災害時に問われる時、BCPの真価が試されます。
最後に、BCP策定で避けるべき5つの落とし穴を整理します。
最も多い失敗が、テンプレートの丸写しです。
問題の構造:
「自ステーションに即した内容」を、時間をかけて作成する必要があります。
作成した計画書が、机の中で死蔵されるケースも多いです。
死蔵の構造:
「計画書を作ることが目的」ではなく「使える計画にすること」が目的です。
訓練が形式化するケースも、よくある問題です。
形式化の構造:
「気づきと改善」を生む訓練設計が、本質的な学びにつながります。
連携先との関係構築不足も、BCPの実効性を損ねます。
不足の構造:
「単独で対応する」発想の限界を、認識する必要があります。
経営者の関与不足も、深刻な問題です。
関与不足の構造:
経営者の本気度が、組織全体のBCPへの取り組みを左右します。
訪問看護ステーションのBCP(事業継続計画)は、2024年4月から全介護事業所で義務化されました。災害多発時代、感染症リスク、訪問看護の特殊性——複数の背景から、BCP策定の重要性が高まっています。報酬減算という経済的インセンティブもありますが、何より「利用者・スタッフを守る経営の本質」としてBCPを位置づける視点が、これからの経営者には求められます。
訪問看護BCPに含めるべき7つの要素(リスクの明確化、業務継続の優先順位、スタッフの安否確認、利用者の安否確認、物資・設備の確保、連携先との関係、復旧計画)と、感染症対策BCPの特殊要素を、自ステーションの実情に応じて整備することが必要です。
実務ステップとして、経営層のコミットメント、リスクアセスメント、計画書の作成、スタッフへの周知、訓練の実施、計画の見直しと改善——6つのステップを継続的に回すことで、BCPが組織に定着します。
経営者として、「義務」ではなく「経営の本質」、「想定外」の想定、地域連携、投資としての位置づけ、スタッフ・利用者への責任——5つの視点を持つことが、BCPの実効性を支えます。
避けるべき落とし穴として、テンプレートの丸写し、計画書の死蔵、訓練の形式化、連携先との関係構築不足、経営者の関与不足——5つの失敗パターンを認識した上で、本質的な取り組みを進める必要があります。
2026年6月2日の通知「梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について」が示すように、行政も継続的にBCPの実効性を求める姿勢を示しています。「義務だから作る」を超えて、「経営と利用者・スタッフを守る実践的な仕組み」として、BCPを進化させていきたいと考えます。
訪問看護は、地域社会のインフラの一部です。災害時こそ、訪問看護の社会的価値が問われます。経営者として、平時から災害時への備えを着実に進めることが、地域からの信頼を支える基盤となります。
HokanPressでは、訪問看護経営の本質的なテーマについて、引き続き率直な発信を続けてまいります。