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訪問看護ステーションのBCP(事業継続計画)の作り方|義務化された災害対策と感染症対応の実務ポイント

宮木 · 2026年6月22日
訪問看護ステーションを含む全介護事業所は、2024年4月からBCP(事業継続計画)策定が義務化されました。2026年6月の通知「梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について」も発出され、災害対策の実効性が改めて問われています。訪問看護のBCP策定の実務ポイントを整理しました。

訪問看護ステーションを含む全介護事業所に、2024年4月からBCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)の策定・運用が義務化されました。さらに、一般社団法人全国訪問看護事業協会のウェブサイトでは、2026年6月2日に「梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について」の通知が周知されており、災害対策の実効性が改めて問われています。

「BCPは大企業のためのもの」「うちのような小規模ステーションには関係ない」——こうした認識を持つ経営者は、現在ではもう少数派になっているはずです。実際に、自然災害の頻発、感染症の流行、システムトラブルなど、訪問看護の現場が直面するリスクは年々多様化しています。BCPは「義務だから作る書類」ではなく、「経営と利用者・スタッフを守る実践的な仕組み」として位置づける視点が、これからの経営者には求められます。

私自身、訪問看護ステーション経営者として、BCP策定への取り組みを段階的に進めてきました。「形式的に作って終わり」では意味がなく、「実際に使える計画」として機能させるには、組織的な取り組みが必要です。本記事では、訪問看護におけるBCP策定の実務ポイントを、率直に整理します。

訪問看護でBCPが義務化された背景

まず、なぜ訪問看護を含む介護事業所でBCPが義務化されたのか、整理します。

義務化の経緯

BCPの義務化は、複数の経緯を経て実現しました。

主な経緯:

  • 2018年: 西日本豪雨等の災害頻発
  • 2020年〜: 新型コロナウイルス感染症
  • 2021年: 介護報酬改定でBCP策定の経過措置開始
  • 2024年4月: 全介護事業所でBCP策定の義務化
  • 2024年4月: 業務継続体制未策定の場合、報酬減算の対象

3年間の経過措置期間を経て、本格的な義務化となりました。

災害多発時代の現実

日本の災害多発の現実が、BCPの必要性を高めています。

近年の主な災害:

  • 地震(各地)
  • 豪雨・台風による浸水・土砂災害
  • 大雪・暴風雪
  • 火災
  • 感染症流行(新型コロナウイルス等)
  • システム障害・サイバー攻撃

「いつかは大丈夫」ではなく「いつ起きてもおかしくない」前提での備えが必要です。

訪問看護の特殊性

訪問看護には、災害対応における独自の特殊性があります。

特殊性の要素:

  • 利用者宅への訪問が業務の中心
  • 1人で訪問する場面が多い
  • 医療依存度の高い利用者
  • ご家族の介護能力との連動
  • 地域に分散した利用者

「事業所が無事でも訪問できない」「利用者宅が被災」など、複層的なリスク管理が必要です。

通常型と機能強化型での義務の差

BCP策定の義務は、通常型・機能強化型共通です。

共通の義務:

  • 業務継続計画の策定
  • 定期的な研修・訓練
  • 計画の見直し
  • 関係機関との連携
  • 利用者・家族への説明

「機能強化型だから手厚く」「通常型だから簡素に」という構造ではなく、全事業所共通の義務です。

報酬減算の現実

BCP未策定の場合、報酬減算の対象となります。

減算の構造:

  • 介護保険報酬の1%減算(目安)
  • 継続的な減算
  • 経営への直接的影響
  • 行政指導の対象
  • 利用者への影響

「BCPを作らない」選択肢は、もはや経済合理性すらない構造です。

訪問看護BCPに含めるべき要素

訪問看護のBCPには、複数の要素を含める必要があります。

要素1: 想定するリスクの明確化

まず、自ステーションが直面するリスクを明確化します。

想定すべきリスク:

  • 地震(震度別)
  • 豪雨・台風
  • 大雪・暴風雪
  • 火災
  • 感染症流行
  • システム障害
  • サイバー攻撃
  • 重要スタッフの離脱
  • 連携先の機能停止

自ステーションの地域特性に応じた、現実的なリスク想定が必要です。

要素2: 業務継続の優先順位

リスク発生時に継続すべき業務の優先順位を明確化します。

優先順位の例:

  • 最優先: 医療依存度の高い利用者への対応
  • 高優先: 看取り期の利用者
  • 中優先: 慢性疾患の管理
  • 低優先: 安定期の利用者
  • 一時停止可能: リハビリ的訪問

すべての業務を同時に維持するのは不可能なため、優先順位の事前明確化が重要です。

要素3: スタッフの安否確認

スタッフの安否確認の仕組みも、BCPの核心です。

安否確認の仕組み:

  • 連絡網の整備
  • 安否確認システム(電話・メール・LINE等)
  • 集合場所の明確化
  • 出勤可否の判断基準
  • 家族の安否を含めた配慮

「スタッフが無事でなければ業務は継続できない」前提での仕組みが必要です。

要素4: 利用者の安否確認

利用者の安否確認体制も、訪問看護独自の重要要素です。

安否確認の体制:

  • 利用者別の連絡先リスト
  • 緊急時の優先連絡順位
  • ご家族・近隣住民との連携
  • 訪問可否の判断
  • 連携機関への通報

医療依存度の高い利用者を中心に、優先的に確認する体制が必要です。

要素5: 物資・設備の確保

物資・設備の確保も、BCPの重要要素です。

確保すべき物資:

  • 医療材料・消耗品の備蓄
  • 飲料水・食料(スタッフ用)
  • 燃料(車両・発電機)
  • 通信機器(衛星電話等)
  • 簡易医療機器

「日常の在庫」では不十分です。災害時に備えた追加備蓄が必要です。

要素6: 連携先との関係

連携先との関係も、BCPに組み込みます。

連携の対象:

  • 連携病院
  • 訪問診療医
  • ケアマネジャー
  • 訪問介護事業所
  • 行政
  • 業界団体
  • 他の訪問看護ステーション

「単独事業所だけでは限界がある」という認識のもと、地域連携を組み込みます。

要素7: 復旧計画

最後に、復旧計画もBCPの一部です。

復旧計画の要素:

  • 段階的な業務再開
  • スタッフの心身ケア
  • 利用者対応の再構築
  • 連携先との関係回復
  • 設備・物資の補充
  • 計画の振り返り

「災害が終わったら自動的に元に戻る」のではなく、計画的な復旧プロセスが必要です。

感染症対策BCPの特殊要素

災害対策BCPと並行して、感染症対策BCPも重要です。

感染症対策の独自性

感染症対策は、自然災害とは異なる独自の要素があります。

独自要素:

  • 長期化する可能性
  • スタッフ自身の感染リスク
  • 利用者の感染リスク
  • 訪問の継続可否
  • 物資不足(マスク・防護具等)
  • 風評被害のリスク

新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた、現実的な計画が必要です。

スタッフ感染時の対応

スタッフが感染した場合の対応も、明確化しておく必要があります。

対応の要素:

  • 即時の業務除外
  • 濃厚接触者の特定
  • 代替スタッフの確保
  • 利用者への通知
  • 連携先への通知
  • 復職時の対応

「個人の問題」ではなく「組織的な対応」として整備します。

利用者感染時の対応

利用者が感染した場合の対応も、計画しておきます。

対応の要素:

  • 訪問時の感染対策強化
  • 専用防護具の準備
  • 訪問担当者の固定
  • 連携医療機関との調整
  • ご家族への支援
  • 周辺利用者への配慮

「訪問拒否」ではなく「安全に訪問継続する」体制が、訪問看護の使命です。

物資の備蓄

感染症対策物資の備蓄も、BCPの重要要素です。

備蓄すべき物資:

  • マスク(複数種類)
  • 手袋
  • フェイスシールド
  • ガウン・エプロン
  • 消毒液
  • 体温計
  • パルスオキシメーター

2020年〜2022年の経験を活かした、現実的な備蓄計画が必要です。

風評被害への対応

感染症対策には、風評被害への対応も含まれます。

対応の要素:

  • 情報発信の方針
  • メディア対応
  • 利用者・家族への説明
  • スタッフへの心理的サポート
  • 法的対応の準備

冷静で誠実な情報発信が、信頼を維持する基盤です。

BCP策定の実務ステップ

BCP策定の実務ステップを、整理します。

ステップ1: 経営層のコミットメント

まず、経営者・管理者のコミットメントが出発点です。

コミットメントの要素:

  • BCPへの本気度の表明
  • 必要な時間・予算の確保
  • スタッフへの周知
  • 進捗管理の責任
  • 定期的な見直しへの関与

「形式的に作る」のではなく「本気で機能させる」姿勢が、すべての出発点です。

ステップ2: リスクアセスメント

自ステーションが直面するリスクを、客観的にアセスメントします。

アセスメントの要素:

  • 地域の災害リスク(地震、豪雨、津波等)
  • 事業所の物理的脆弱性
  • スタッフ構成のリスク
  • 利用者構成のリスク
  • 連携先の脆弱性

地域のハザードマップなどを活用した、現実的な評価が必要です。

ステップ3: 計画書の作成

リスクアセスメントを踏まえて、計画書を作成します。

計画書の構成:

  • 基本方針
  • 想定リスク
  • 業務継続の優先順位
  • スタッフ・利用者対応
  • 物資・設備
  • 連携先との関係
  • 復旧計画

「テンプレートを埋める」ではなく「自ステーションに即した内容」を作成します。

ステップ4: スタッフへの周知

完成した計画を、スタッフに周知します。

周知の方法:

  • 全体研修の実施
  • 個別役割の明確化
  • 配布資料の整備
  • 質問対応窓口
  • 継続的な周知

「計画書は管理者の机の中」ではなく「全スタッフが理解している」状態を目指します。

ステップ5: 訓練の実施

定期的な訓練の実施も、BCPの重要要素です。

訓練の例:

  • 安否確認訓練
  • 災害対応シミュレーション
  • 感染症発生時の対応訓練
  • 連携先との合同訓練
  • 図上訓練

年1回以上の訓練が、計画の実効性を担保します。

ステップ6: 計画の見直しと改善

訓練や実際の経験を踏まえて、計画を継続的に見直します。

見直しのタイミング:

  • 年1回の定期見直し
  • 訓練後の振り返り
  • 実際の災害・感染症対応後
  • 制度変更時
  • 事業所の状況変化時

「一度作ったら終わり」ではなく「進化し続ける計画」が、BCPの本質です。

経営者として持つべき視点

BCP策定に向き合う経営者として、持つべき視点を整理します。

視点1: 「義務」ではなく「経営の本質」

BCPを「義務だから作る」と捉えるか、「経営の本質」と捉えるかで、計画の質が大きく異なります。

経営の本質としてのBCP:

  • 利用者の生命を守る
  • スタッフの安全を確保
  • 事業の継続性を保証
  • 地域社会への責任
  • 経営の持続可能性

「報酬減算を避けるため」ではない、本質的な動機が、計画の実効性を支えます。

視点2: 「想定外」を想定する

BCP策定では、「想定外」を想定する視点も重要です。

「想定外」への準備:

  • 複合災害(地震+台風+感染症)
  • 想定を超える規模
  • 連携先の機能停止
  • スタッフの大量離脱
  • 長期化するリスク

「最悪のシナリオ」を想定した計画が、現実への対応力を生みます。

視点3: 地域連携の重要性

BCPは、自ステーション単独では完結しません。

地域連携の要素:

  • 行政との連携
  • 業界団体への参加
  • 他事業所との相互支援
  • 連携病院との関係
  • 地域包括ケアシステム

「地域全体で支え合う」発想が、災害対応の実効性を高めます。

視点4: 投資としての位置づけ

BCP関連の投資を、「コスト」ではなく「投資」と捉えることも重要です。

投資の対象:

  • 計画策定のための時間・人件費
  • 物資の備蓄費用
  • 通信機器・システム
  • 訓練費用
  • 専門家への相談料

「いざという時の備え」への投資は、経営の持続可能性への投資です。

視点5: スタッフ・利用者への責任

最後に、スタッフ・利用者への責任を果たす視点が、BCPの根底です。

責任の内容:

  • スタッフの命と健康を守る
  • 利用者の生活を支える
  • ご家族の不安に応える
  • 地域社会の一員としての役割
  • 業界の信頼を守る

「経営者として何をすべきか」を、災害時に問われる時、BCPの真価が試されます。

BCP策定で避けるべき5つの落とし穴

最後に、BCP策定で避けるべき5つの落とし穴を整理します。

落とし穴1: テンプレートの丸写し

最も多い失敗が、テンプレートの丸写しです。

問題の構造:

  • 自ステーションの実情と乖離
  • 形式的な書類
  • スタッフの実感の欠如
  • 実効性のなさ
  • 訓練不可能な計画

「自ステーションに即した内容」を、時間をかけて作成する必要があります。

落とし穴2: 計画書の死蔵

作成した計画書が、机の中で死蔵されるケースも多いです。

死蔵の構造:

  • 計画書が活用されない
  • スタッフが内容を知らない
  • 訓練が実施されない
  • 見直しが行われない
  • 災害時に機能しない

「計画書を作ることが目的」ではなく「使える計画にすること」が目的です。

落とし穴3: 訓練の形式化

訓練が形式化するケースも、よくある問題です。

形式化の構造:

  • 同じパターンの訓練の繰り返し
  • 「やった」だけで満足
  • 課題抽出がない
  • 改善につながらない
  • スタッフのモチベーション低下

「気づきと改善」を生む訓練設計が、本質的な学びにつながります。

落とし穴4: 連携先との関係構築不足

連携先との関係構築不足も、BCPの実効性を損ねます。

不足の構造:

  • 自事業所だけで完結する計画
  • 連携先との事前協議なし
  • 災害時の協力体制が曖昧
  • 行政との関係構築不足
  • 業界団体への参加なし

「単独で対応する」発想の限界を、認識する必要があります。

落とし穴5: 経営者の関与不足

経営者の関与不足も、深刻な問題です。

関与不足の構造:

  • 担当者に丸投げ
  • 形式的な承認
  • 進捗管理の不在
  • 訓練への不参加
  • 改善への関与なし

経営者の本気度が、組織全体のBCPへの取り組みを左右します。

まとめ

訪問看護ステーションのBCP(事業継続計画)は、2024年4月から全介護事業所で義務化されました。災害多発時代、感染症リスク、訪問看護の特殊性——複数の背景から、BCP策定の重要性が高まっています。報酬減算という経済的インセンティブもありますが、何より「利用者・スタッフを守る経営の本質」としてBCPを位置づける視点が、これからの経営者には求められます。

訪問看護BCPに含めるべき7つの要素(リスクの明確化、業務継続の優先順位、スタッフの安否確認、利用者の安否確認、物資・設備の確保、連携先との関係、復旧計画)と、感染症対策BCPの特殊要素を、自ステーションの実情に応じて整備することが必要です。

実務ステップとして、経営層のコミットメント、リスクアセスメント、計画書の作成、スタッフへの周知、訓練の実施、計画の見直しと改善——6つのステップを継続的に回すことで、BCPが組織に定着します。

経営者として、「義務」ではなく「経営の本質」、「想定外」の想定、地域連携、投資としての位置づけ、スタッフ・利用者への責任——5つの視点を持つことが、BCPの実効性を支えます。

避けるべき落とし穴として、テンプレートの丸写し、計画書の死蔵、訓練の形式化、連携先との関係構築不足、経営者の関与不足——5つの失敗パターンを認識した上で、本質的な取り組みを進める必要があります。

2026年6月2日の通知「梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について」が示すように、行政も継続的にBCPの実効性を求める姿勢を示しています。「義務だから作る」を超えて、「経営と利用者・スタッフを守る実践的な仕組み」として、BCPを進化させていきたいと考えます。

訪問看護は、地域社会のインフラの一部です。災害時こそ、訪問看護の社会的価値が問われます。経営者として、平時から災害時への備えを着実に進めることが、地域からの信頼を支える基盤となります。

HokanPressでは、訪問看護経営の本質的なテーマについて、引き続き率直な発信を続けてまいります。

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