2025年、訪問看護業界に衝撃が走りました。東証プライム上場企業のサンウェルズが約28億円超の診療報酬不正請求を認めたことを皮切りに、医心館でも同様の疑惑が報じられ、ホスピス型住宅併設の訪問看護というビジネスモデル全体に疑問が投げかけられる事態となったのです。
NHKやテレビ東京「ガイアの夜明け」などのメディアでも特集が組まれ、業界外の一般視聴者にも「訪問看護の闇」が知られるようになりました。同時に、適正に訪問看護を提供してきた事業者にとっては、業界全体への信頼失墜という形で大きな影響が及びました。
なぜ、こうした構造的な問題が起きたのか。2026年6月施行の診療報酬改定は、この問題にどう切り込んだのか。HokanPress編集部では、業界の構造と制度改革のポイントを整理しました。本記事は、業界関係者だけでなく、訪問看護を利用する方々、業界に関心を持つ一般の方々にも理解いただける内容を目指しています。
まず、2025年に表面化した問題の概要を確認します。
2025年2月、東証プライム上場のサンウェルズが、約28億円超の診療報酬不正請求を認めたことが報じられました。
報じられた内容:
上場企業が自ら認めるという異例の事態は、業界に大きな衝撃を与えました。
サンウェルズに続き、医心館でも類似の疑惑が報じられました。具体的な金額や行為の詳細は調査段階の部分もありますが、業界全体に構造的な問題が存在することを示唆する展開でした。
日本在宅医療連合学会が2024年10月から11月にかけて医師493名を対象に実施した調査結果も、業界に衝撃を与えました。
調査の主な結果:
これは、医療現場の最前線にいる医師たちが、業界の構造的問題を直接的に証言した極めて重要な調査結果です。
NHK、テレビ東京「ガイアの夜明け」など、複数のメディアが訪問看護業界の問題を特集で取り上げました。
メディア報道の影響:
これにより、業界の自浄作用と制度改革が一気に加速する流れとなりました。
なぜホスピス型住宅併設の訪問看護で、こうした問題が構造的に起きたのか。その背景を整理します。
ホスピス型住宅併設の訪問看護は、特定のビジネスモデルとして急速に拡大しました。
ビジネスモデルの基本構造:
このモデル自体は違法ではありません。問題は、効率性追求が「適正な看護提供」を逸脱した場合に発生します。
医師アンケートで指摘された「86%が併設ステーションしか使えない」という実態は、入居者の事業所選択権が事実上奪われていた構造を示します。
囲い込みの実態:
これにより、競争原理が働かず、不適切な看護提供があっても利用者が事業所を変更できない構造となっていました。
集合住宅という性質上、移動コストが極めて低い構造です。
効率追求の構造:
これにより、適正な看護を提供せずとも収益を最大化する余地が生まれました。
これまでの監視体制では、ホスピス型住宅併設の構造的問題を発見しにくい状況がありました。
監視体制の限界:
これらが重なり、問題が長年にわたって継続できる環境となっていました。
サンウェルズのような上場企業の場合、株主への収益圧力も背景にありました。
収益圧力の構造:
これらが、経営判断を「適正な看護提供」から「収益最大化」に傾ける要因となった可能性が指摘されています。
ここで重要なのは、「適正なホスピス型住宅の訪問看護」と「不適切な事業者」を区別することです。
適正に運営しているホスピス型住宅併設の訪問看護も多数存在します。
適正な事業者の特徴:
これらを実践している事業者は、利用者・家族から高い信頼を得ています。
一方で、問題が指摘される事業者には共通の特徴があります。
不適切な事業者の特徴:
これらは、適正な事業者と明確に区別される構造です。
不適切な事業者の存在は、業界全体に悪影響を及ぼします。
悪影響の例:
このため、業界の自浄作用と制度改革が、業界全体の利益のために必要となります。
2025年に表面化した問題を受けて、2026年6月施行の診療報酬改定では、複数の構造改革が盛り込まれました。
最も重要な改革が、包括型訪問看護療養費の新設です。
包括型の基本構造:
これにより、「短時間で多人数を訪問して個別算定する」というビジネスモデルが、構造的に成立しにくくなります。
包括型の人員配置基準:
これにより、規模に応じた適正な体制構築が要件化されました。
複数名訪問看護加算、難病等複数回訪問加算、夜間早朝加算、深夜加算等が、同一日・同一建物内の算定人数に応じた階段的評価に変更されました。
新しい区分例:
これにより、「大人数を一気に訪問することの効率性」が経済的に評価される構造となり、過剰な訪問頻度を抑制する仕組みが導入されました。
精神科訪問看護に「20分ルール」が導入されました。
20分ルールの内容:
これにより、形式的な短時間訪問による算定が、構造的に不可能となります。
精神科訪問看護に特化した機能強化型Type 4が新設されました。
Type 4の意味:
これにより、「精神科特化」という看板を掲げる事業者の中での質的差別化が制度的に推進されます。
事業者に対する「適正な手続きの確保」が義務付けられました。
義務化された主な内容:
これらが法的義務として明示されたことで、違反した場合の責任追及が明確化されました。
厚生労働省は、2026年1月から訪問看護に関する全国一斉調査を開始するなど、監視体制を強化しています。
監視強化の方向性:
これにより、不適切運営事業者の早期発見と是正が進む構造となっています。
これらの改革により、訪問看護業界はどう変わっていくのか、短期・中期・長期の展望を整理します。
施行直後の短期的な変化は、以下のような姿が予想されます。
予想される変化:
施行直後は混乱が予想されますが、徐々に新しい運営モデルが定着していきます。
2027年の通常改定を経て、業界の質的変化が進みます。
予想される変化:
「質」を軸にした業界再編が進む構造です。
長期的には、訪問看護の社会的地位そのものが変化します。
予想される姿:
2026年改定は、こうした長期的変化の重要な出発点です。
訪問看護を利用する方々、これから利用を検討する方々が知っておくべき点を整理します。
訪問看護ステーションは、利用者の正当な選択肢です。
選択の権利:
「囲い込み」のような扱いを受けたら、それは利用者の権利侵害の可能性があります。
医学的に必要な訪問頻度・時間が、適正に提供されているかを確認します。
確認のポイント:
不自然さを感じたら、ケアマネジャーや主治医に相談することが選択肢です。
報道された問題は一部の事業者によるものであり、多くの訪問看護ステーションは適正に運営されています。
適正運営事業者の特徴:
訪問看護全体への不信を持つのではなく、信頼できる事業者を選ぶ視点が重要です。
不安や疑問がある場合の相談窓口を知っておくことが重要です。
主な相談窓口:
一人で抱え込まず、相談することで、適切な対応につながります。
訪問看護師、医師、その他の医療従事者にとっても、この問題は深刻な意味を持ちます。
医療従事者として、適正な業務遂行が職業倫理の基本です。
遵守すべき事項:
経営者からの不適切な指示があっても、医療従事者として遵守すべき基本があります。
不適切な業務を強いられている場合、声を上げることが業界全体のためになります。
声を上げる選択肢:
「自分一人では変えられない」と諦めず、適切なルートで声を上げることが重要です。
業界全体の信頼回復は、医療従事者一人ひとりの行動から始まります。
参加の方法:
業界の未来は、医療従事者一人ひとりの選択の積み重ねで作られます。
訪問看護経営者にとっても、この問題から学ぶべき重要な視点があります。
短期的な収益最大化ではなく、適正運営こそが長期的な経営戦略となります。
適正運営の経営的意義:
短期的な利益のために適正運営を犠牲にすると、長期的に大きな代償を払う構造です。
事業の透明性確保が、信頼の基盤となります。
透明性の要素:
透明性が低い事業者は、結果として淘汰される時代となっています。
スタッフが「これはおかしい」と感じることを尊重する文化が重要です。
文化の要素:
スタッフの倫理観を抑圧する経営は、結果として組織を弱体化させます。
最終的には、利用者中心の視点を保つことが、経営の本質です。
利用者中心の問い:
これらの問いを継続的に問い続ける姿勢が、経営者の責務です。
2025年に表面化したホスピス型住宅併設の訪問看護における過剰請求問題は、業界の構造的な課題を浮き彫りにしました。約28億円規模の不正請求、医師493名のアンケートで明らかになった不適切な圧力、メディアでの大々的な報道——これらすべてが、業界の信頼を揺るがす事態となりました。
しかし、2026年6月施行の診療報酬改定では、包括型訪問看護療養費の新設、加算の同一建物・人数別評価、精神科訪問看護の20分ルール、機能強化型Type 4の新設、適正な手続きの義務化、監視体制の強化など、複数の構造改革が盛り込まれました。これらにより、不適切な運営が構造的に困難となり、業界全体の質的向上が進む方向性が明確化されました。
利用者・家族として、看護師・医療従事者として、経営者として、それぞれの立場でこの問題から学ぶべきことがあります。事業所選択の権利、適正な業務の遵守、適正運営の経営的価値——どれも訪問看護業界の健全な発展に不可欠な要素です。
不適切な一部事業者の存在によって、業界全体の信頼が揺らぐことは、適正に訪問看護を提供する多くの事業者・看護師にとっても深刻な問題です。業界の自浄作用と制度改革が連動することで、訪問看護がもう一度、利用者・家族・社会から信頼される仕事として確立されることを願っています。
訪問看護は、地域社会にとって不可欠な存在です。質の高い訪問看護が、適正に提供される業界へ。2026年改定を、その転換点として活用していきたいと考えます。
HokanPress編集部では、訪問看護業界の健全な発展に資する情報を、独立系メディアの立場から、引き続き発信してまいります。