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ホスピス型住宅の訪問看護で「過剰請求」が起きる構造|2026年6月改定が業界の闇にどう切り込んだか

HokanPress編集部 · 2026年6月6日
2025年に表面化したホスピス型住宅併設の訪問看護による過剰請求問題。約28億円規模の不正請求が報じられ、業界全体への信頼が揺らぐ事態となりました。なぜこうした問題が構造的に起きるのか、2026年6月改定はそれにどう対応したのか。HokanPress編集部が、業界の構造と制度改革を整理しました。

2025年、訪問看護業界に衝撃が走りました。東証プライム上場企業のサンウェルズが約28億円超の診療報酬不正請求を認めたことを皮切りに、医心館でも同様の疑惑が報じられ、ホスピス型住宅併設の訪問看護というビジネスモデル全体に疑問が投げかけられる事態となったのです。

NHKやテレビ東京「ガイアの夜明け」などのメディアでも特集が組まれ、業界外の一般視聴者にも「訪問看護の闇」が知られるようになりました。同時に、適正に訪問看護を提供してきた事業者にとっては、業界全体への信頼失墜という形で大きな影響が及びました。

なぜ、こうした構造的な問題が起きたのか。2026年6月施行の診療報酬改定は、この問題にどう切り込んだのか。HokanPress編集部では、業界の構造と制度改革のポイントを整理しました。本記事は、業界関係者だけでなく、訪問看護を利用する方々、業界に関心を持つ一般の方々にも理解いただける内容を目指しています。

何が起きていたのか

まず、2025年に表面化した問題の概要を確認します。

サンウェルズの28億円不正請求

2025年2月、東証プライム上場のサンウェルズが、約28億円超の診療報酬不正請求を認めたことが報じられました。

報じられた内容:

  • ホスピス型住宅併設の訪問看護で算定要件を満たさない請求
  • 過剰な訪問回数による算定
  • 形式的な訪問記録による算定
  • 複数年にわたる継続的な不正

上場企業が自ら認めるという異例の事態は、業界に大きな衝撃を与えました。

医心館でも類似の疑惑

サンウェルズに続き、医心館でも類似の疑惑が報じられました。具体的な金額や行為の詳細は調査段階の部分もありますが、業界全体に構造的な問題が存在することを示唆する展開でした。

医師493名アンケートの衝撃

日本在宅医療連合学会が2024年10月から11月にかけて医師493名を対象に実施した調査結果も、業界に衝撃を与えました。

調査の主な結果:

  • 約4割の医師が、ホスピス型住宅から「虚偽の病名や過剰な訪問回数を求められた経験がある」と回答
  • 約60%の医師が、主治医変更の圧力を受けた経験があると回答
  • 約86%の医師が、入居者は「原則として併設ステーションしか使えない」と回答

これは、医療現場の最前線にいる医師たちが、業界の構造的問題を直接的に証言した極めて重要な調査結果です。

メディアでの大々的な報道

NHK、テレビ東京「ガイアの夜明け」など、複数のメディアが訪問看護業界の問題を特集で取り上げました。

メディア報道の影響:

  • 業界外への問題の周知
  • 利用者・家族の不安の高まり
  • 厚生労働省への対応プレッシャー
  • 政治的議論の活発化

これにより、業界の自浄作用と制度改革が一気に加速する流れとなりました。

なぜ過剰請求が構造的に起きたのか

なぜホスピス型住宅併設の訪問看護で、こうした問題が構造的に起きたのか。その背景を整理します。

構造的要因1: ビジネスモデルの設計

ホスピス型住宅併設の訪問看護は、特定のビジネスモデルとして急速に拡大しました。

ビジネスモデルの基本構造:

  • 高齢者向け住宅の運営
  • 同一法人グループによる訪問看護ステーション併設
  • 入居者への集中的な訪問看護提供
  • 効率的な訪問による高収益の実現

このモデル自体は違法ではありません。問題は、効率性追求が「適正な看護提供」を逸脱した場合に発生します。

構造的要因2: 入居者の「囲い込み」

医師アンケートで指摘された「86%が併設ステーションしか使えない」という実態は、入居者の事業所選択権が事実上奪われていた構造を示します。

囲い込みの実態:

  • 入居時の説明で併設ステーションへの誘導
  • 他の事業所選択肢の情報提供不足
  • 主治医も同一グループ内で選択
  • ケアマネジャーも同一グループ内
  • 入居者・家族の選択肢の制限

これにより、競争原理が働かず、不適切な看護提供があっても利用者が事業所を変更できない構造となっていました。

構造的要因3: 「短時間で多人数」の効率追求

集合住宅という性質上、移動コストが極めて低い構造です。

効率追求の構造:

  • 同じ建物内で複数の利用者を訪問
  • 移動時間ほぼゼロ
  • 短時間訪問でも算定可能(これまでの制度)
  • 1日に20人〜50人を訪問するケースも
  • 1ステーションで月数千件の訪問件数

これにより、適正な看護を提供せずとも収益を最大化する余地が生まれました。

構造的要因4: 監視体制の限界

これまでの監視体制では、ホスピス型住宅併設の構造的問題を発見しにくい状況がありました。

監視体制の限界:

  • 個別レセプトの不適切性は判定困難
  • 実地指導の頻度は限定的
  • 内部告発を受ける仕組みの不十分
  • 業界団体での自主規制の弱さ
  • 横断的な調査体制の不足

これらが重なり、問題が長年にわたって継続できる環境となっていました。

構造的要因5: 株式公開企業の収益圧力

サンウェルズのような上場企業の場合、株主への収益圧力も背景にありました。

収益圧力の構造:

  • 四半期ごとの業績報告
  • 売上・利益の継続的成長への期待
  • 株価維持のための業績作り
  • M&Aや新規出店への投資原資

これらが、経営判断を「適正な看護提供」から「収益最大化」に傾ける要因となった可能性が指摘されています。

適正な訪問看護との違い

ここで重要なのは、「適正なホスピス型住宅の訪問看護」と「不適切な事業者」を区別することです。

適正な事業者の特徴

適正に運営しているホスピス型住宅併設の訪問看護も多数存在します。

適正な事業者の特徴:

  • 医学的必要性に基づく訪問頻度
  • 利用者の事業所選択権の保障
  • 透明な紹介関係
  • 質の高い看護提供
  • 倫理的な業務遂行
  • スタッフへの適正な処遇

これらを実践している事業者は、利用者・家族から高い信頼を得ています。

不適切な事業者の特徴

一方で、問題が指摘される事業者には共通の特徴があります。

不適切な事業者の特徴:

  • 利用者の選択権を制限
  • 医学的必要性に基づかない訪問頻度
  • 形式的な看護提供
  • 不透明な紹介関係
  • スタッフへの過剰なノルマ
  • 内部告発の抑圧

これらは、適正な事業者と明確に区別される構造です。

業界全体への影響

不適切な事業者の存在は、業界全体に悪影響を及ぼします。

悪影響の例:

  • 業界全体への信頼失墜
  • 適正運営事業者への風評被害
  • 規制強化による負担増
  • 看護師の業界離れ
  • 利用者・家族の不安拡大

このため、業界の自浄作用と制度改革が、業界全体の利益のために必要となります。

2026年6月改定はどう切り込んだか

2025年に表面化した問題を受けて、2026年6月施行の診療報酬改定では、複数の構造改革が盛り込まれました。

改革1: 包括型訪問看護療養費の新設

最も重要な改革が、包括型訪問看護療養費の新設です。

包括型の基本構造:

  • 同一建物内の利用者への訪問看護を包括的に評価
  • 1日単位での包括評価
  • 過剰な訪問頻度の経済的インセンティブを抑制
  • 医学的必要性に基づく訪問への評価集中

これにより、「短時間で多人数を訪問して個別算定する」というビジネスモデルが、構造的に成立しにくくなります。

包括型の人員配置基準:

  • 算定利用者30人以下: 夜間対応看護職員 常時1名以上
  • 算定利用者31〜80人: 夜間対応看護職員 常時2名以上
  • 算定利用者81人以上: 50人ごとに1名加算

これにより、規模に応じた適正な体制構築が要件化されました。

改革2: 加算の同一建物・人数別評価

複数名訪問看護加算、難病等複数回訪問加算、夜間早朝加算、深夜加算等が、同一日・同一建物内の算定人数に応じた階段的評価に変更されました。

新しい区分例:

  • 2〜9人: 従来通り
  • 10〜19人: 中間区分
  • 20〜49人: より低い区分
  • 50人以上: 最も低い区分

これにより、「大人数を一気に訪問することの効率性」が経済的に評価される構造となり、過剰な訪問頻度を抑制する仕組みが導入されました。

改革3: 精神科訪問看護の20分ルール

精神科訪問看護に「20分ルール」が導入されました。

20分ルールの内容:

  • 訪問時間の最低基準を20分以上に
  • 20分未満の訪問は算定対象外
  • 訪問記録への時刻明記が必須
  • 実地指導での確認対象

これにより、形式的な短時間訪問による算定が、構造的に不可能となります。

改革4: 機能強化型Type 4の新設

精神科訪問看護に特化した機能強化型Type 4が新設されました。

Type 4の意味:

  • 適正な精神科訪問看護を評価
  • 適切な体制要件を求める
  • 不適切運営事業者との差別化
  • 業界の質的向上の促進

これにより、「精神科特化」という看板を掲げる事業者の中での質的差別化が制度的に推進されます。

改革5: 適正な手続きの義務化

事業者に対する「適正な手続きの確保」が義務付けられました。

義務化された主な内容:

  • 特定の医師や事業者への不適切な誘導の禁止
  • 経済的利益による誘引の禁止
  • 事故発生時の安全管理体制の確保
  • 訪問看護記録書の整備
  • 訪問開始・終了時刻の明記

これらが法的義務として明示されたことで、違反した場合の責任追及が明確化されました。

改革6: 監視体制の強化

厚生労働省は、2026年1月から訪問看護に関する全国一斉調査を開始するなど、監視体制を強化しています。

監視強化の方向性:

  • 全国規模での実態調査
  • ホスピス型住宅併設等の重点監視
  • 実地指導の頻度向上
  • 不適切請求への対応強化
  • 業界団体との連携

これにより、不適切運営事業者の早期発見と是正が進む構造となっています。

改定後、業界はどう変わるか

これらの改革により、訪問看護業界はどう変わっていくのか、短期・中期・長期の展望を整理します。

短期的な変化(2026年6月〜2027年)

施行直後の短期的な変化は、以下のような姿が予想されます。

予想される変化:

  • 不適切運営事業者の事業縮小・撤退
  • 包括型療養費への移行判断
  • 加算算定方法の変化
  • レセプト請求実務の混乱と適応
  • 業界全体での法令遵守意識の向上

施行直後は混乱が予想されますが、徐々に新しい運営モデルが定着していきます。

中期的な変化(2027年〜2029年)

2027年の通常改定を経て、業界の質的変化が進みます。

予想される変化:

  • 適正運営事業者への利用者集中
  • 質の高い訪問看護の標準化
  • 利用者・家族からの信頼回復
  • 看護師の専門性評価の向上
  • ビジネスモデルの多様化

「質」を軸にした業界再編が進む構造です。

長期的な変化(2030年以降)

長期的には、訪問看護の社会的地位そのものが変化します。

予想される姿:

  • 適正な訪問看護の社会的地位確立
  • 看護師のキャリアパスの体系化
  • ICT・AI活用の標準化
  • 在宅医療の中核としての位置づけ強化
  • 国際的に認められる日本モデルの構築

2026年改定は、こうした長期的変化の重要な出発点です。

利用者・家族が知っておくべきこと

訪問看護を利用する方々、これから利用を検討する方々が知っておくべき点を整理します。

知っておくべき点1: 事業所は選べる

訪問看護ステーションは、利用者の正当な選択肢です。

選択の権利:

  • 複数のステーションから自由に選択可能
  • 「併設のステーションしか使えない」は誤り
  • ケアマネジャーに相談すれば変更可能
  • 地域内の他のステーションへの問い合わせも可能

「囲い込み」のような扱いを受けたら、それは利用者の権利侵害の可能性があります。

知っておくべき点2: 訪問頻度・時間の妥当性

医学的に必要な訪問頻度・時間が、適正に提供されているかを確認します。

確認のポイント:

  • 訪問頻度の妥当性
  • 訪問時間の十分性(短すぎないか)
  • 訪問内容の質
  • ご家族への説明の充実度
  • ケアプランとの整合性

不自然さを感じたら、ケアマネジャーや主治医に相談することが選択肢です。

知っておくべき点3: 多くの事業者は適正運営

報道された問題は一部の事業者によるものであり、多くの訪問看護ステーションは適正に運営されています。

適正運営事業者の特徴:

  • 利用者の選択を尊重
  • 医学的必要性に基づく訪問
  • 質の高い看護提供
  • 透明な料金体系
  • ご家族との丁寧なコミュニケーション

訪問看護全体への不信を持つのではなく、信頼できる事業者を選ぶ視点が重要です。

知っておくべき点4: 相談窓口の存在

不安や疑問がある場合の相談窓口を知っておくことが重要です。

主な相談窓口:

  • 担当ケアマネジャー
  • 主治医
  • 地域包括支援センター
  • 都道府県の介護保険相談窓口
  • 国民健康保険連合会

一人で抱え込まず、相談することで、適切な対応につながります。

看護師・医療従事者が考えるべきこと

訪問看護師、医師、その他の医療従事者にとっても、この問題は深刻な意味を持ちます。

考えるべき点1: 適正な業務の遵守

医療従事者として、適正な業務遂行が職業倫理の基本です。

遵守すべき事項:

  • 医学的必要性に基づく業務
  • 適正な記録の作成
  • 法令の遵守
  • 倫理的判断
  • 利用者の最善の利益の追求

経営者からの不適切な指示があっても、医療従事者として遵守すべき基本があります。

考えるべき点2: 内部からの声

不適切な業務を強いられている場合、声を上げることが業界全体のためになります。

声を上げる選択肢:

  • 上司・経営者への直接相談
  • 内部通報制度の活用
  • 業界団体への相談
  • 行政への通報
  • 弁護士への相談

「自分一人では変えられない」と諦めず、適切なルートで声を上げることが重要です。

考えるべき点3: 業界の信頼回復への参加

業界全体の信頼回復は、医療従事者一人ひとりの行動から始まります。

参加の方法:

  • 適正な業務遂行
  • 質の高い看護の追求
  • 業界内での議論への参加
  • 後輩の指導
  • 専門性の継続的な向上

業界の未来は、医療従事者一人ひとりの選択の積み重ねで作られます。

経営者として持つべき視点

訪問看護経営者にとっても、この問題から学ぶべき重要な視点があります。

視点1: 適正運営は経営戦略

短期的な収益最大化ではなく、適正運営こそが長期的な経営戦略となります。

適正運営の経営的意義:

  • 業界の規制強化への対応力
  • 利用者からの信頼獲得
  • スタッフの定着率向上
  • 連携先からの評価向上
  • 業界内での発言力

短期的な利益のために適正運営を犠牲にすると、長期的に大きな代償を払う構造です。

視点2: 透明性の確保

事業の透明性確保が、信頼の基盤となります。

透明性の要素:

  • 紹介関係の明示
  • 料金体系の明確化
  • 利用者選択権の保障
  • スタッフへの情報共有
  • 業界・行政への協力

透明性が低い事業者は、結果として淘汰される時代となっています。

視点3: スタッフの倫理観の尊重

スタッフが「これはおかしい」と感じることを尊重する文化が重要です。

文化の要素:

  • 内部通報制度の整備
  • 質問しやすい雰囲気
  • 失敗を責めない文化
  • 倫理研修の実施
  • 倫理委員会の設置

スタッフの倫理観を抑圧する経営は、結果として組織を弱体化させます。

視点4: 利用者中心の視点

最終的には、利用者中心の視点を保つことが、経営の本質です。

利用者中心の問い:

  • 私たちの看護は利用者のためになっているか
  • 利用者の選択を尊重しているか
  • 利用者の医学的必要性に応えているか
  • 利用者・家族の信頼を得ているか

これらの問いを継続的に問い続ける姿勢が、経営者の責務です。

まとめ

2025年に表面化したホスピス型住宅併設の訪問看護における過剰請求問題は、業界の構造的な課題を浮き彫りにしました。約28億円規模の不正請求、医師493名のアンケートで明らかになった不適切な圧力、メディアでの大々的な報道——これらすべてが、業界の信頼を揺るがす事態となりました。

しかし、2026年6月施行の診療報酬改定では、包括型訪問看護療養費の新設、加算の同一建物・人数別評価、精神科訪問看護の20分ルール、機能強化型Type 4の新設、適正な手続きの義務化、監視体制の強化など、複数の構造改革が盛り込まれました。これらにより、不適切な運営が構造的に困難となり、業界全体の質的向上が進む方向性が明確化されました。

利用者・家族として、看護師・医療従事者として、経営者として、それぞれの立場でこの問題から学ぶべきことがあります。事業所選択の権利、適正な業務の遵守、適正運営の経営的価値——どれも訪問看護業界の健全な発展に不可欠な要素です。

不適切な一部事業者の存在によって、業界全体の信頼が揺らぐことは、適正に訪問看護を提供する多くの事業者・看護師にとっても深刻な問題です。業界の自浄作用と制度改革が連動することで、訪問看護がもう一度、利用者・家族・社会から信頼される仕事として確立されることを願っています。

訪問看護は、地域社会にとって不可欠な存在です。質の高い訪問看護が、適正に提供される業界へ。2026年改定を、その転換点として活用していきたいと考えます。

HokanPress編集部では、訪問看護業界の健全な発展に資する情報を、独立系メディアの立場から、引き続き発信してまいります。

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