東証プライムに上場するLITALICOという会社がある。障害のある方の就労支援や学習支援を全国で展開する企業だ。
同社は2023年2月、精神科に特化した訪問看護ステーションを運営するAmu.あむ株式会社を100%グループ化した。世田谷区と調布市を中心に3拠点、加えて障害者グループホームを1拠点運営していた会社である。同じ年の10月には、都内で6拠点を展開し小児領域に先駆的に取り組んでいた株式会社VISITもグループ化した。
障害福祉と訪問看護をつなぐ。当時の発表を読むと、住まい、就労、医療をワンストップで提供するという構想が語られている。
ところが2025年11月、VISITはグループ内の別会社に吸収合併され、統合された。そして同年12月11日、Amu.あむの全株式を株式会社ALTWELLへ譲渡する契約が締結されている。譲渡時点で、Amu.あむの拠点は5つに増えていた。
参入から3年足らず。この動きは、訪問看護業界がどの局面に入ったかを示していると私は考えている。
Amu.あむを引き受けたALTWELLは、東京東部と千葉を中心に介護サービスを展開する会社である。介護事業への参入は2023年4月と、比較的新しい。
譲受の理由として挙げられているのが、東京西部エリアへの拠点拡大と、医療と介護の連携強化だ。急速に事業規模を拡大するなかで、精神領域に特化した訪問看護の実績を持つ会社をグループに迎えるという構図になる。
売り手は上場企業、買い手は参入2年目の成長企業。売られた側は、精神科特化で5拠点まで育った事業所。この三者の関係に、いまの業界の姿が凝縮されている。
同様の動きは他にもある。2024年8月には、DSヘルスケアグループのDSセルリアが訪問看護事業を営む株式会社アイエムを100%取得し子会社化した。既存の介護事業所との相乗効果とマネジメントの効率化が理由とされている。
訪問看護は、買われる側として活発な領域になっている。
参入の理由は分かりやすい。当メディアで人材紹介の手数料を扱った際に述べたが、看護師一人の採用には100万円規模がかかる。訪問看護のM&Aは、事業と一緒に人材と利用者と地域の紹介ネットワークを手に入れられる。ゼロから作れば年単位かかるものが、まとめて手に入る。
在宅シフトという政策の追い風もある。新たな地域医療構想では、2040年に向けて在宅医療と訪問看護の需要が大幅に増えると明記された。成長市場として捉えるのは自然だ。
では、なぜ出るのか。個別企業の判断について外から断定はできない。ただ一般論として言えることがある。
訪問看護は、労働集約的な事業である。人件費率は74%を超え、当メディアで検証したとおり、月商347万円の平均的な事業所に残る利益は月36万円ほどにとどまる。売上を伸ばすには人を増やすしかなく、その人が採れない。規模の経済が効きにくい構造だ。
加えて、本業との相乗効果が期待ほど出ないという事情もありうる。異業種から参入した企業が、数年運営してみて事業ポートフォリオを見直す。上場企業であれば、資本効率の観点から判断が入る。
拡大の局面では買収が進み、次の局面では整理が始まる。訪問看護がその段階に差しかかっているように見える。
業界全体の数字も確認しておきたい。
介護サービス施設・事業所調査のデータをもとにした集計では、訪問看護ステーションは2022年から2024年の2年間で約2割増と急拡大している。当メディアでお伝えしたとおり、稼働数は2万件を超えた。一方で居宅介護支援事業所や地域密着型通所介護は減少傾向にあり、同じ介護保険サービスのなかで二極化が進む。
その拡大の裏で、倒産も起きている。東京商工リサーチのレポートによれば、2025年に倒産した介護事業者176件のうち、資本金500万円未満が128件で72.7%、従業員10人未満が142件で80.6%を占めた。訪問介護に限れば倒産は91件で3年連続の最多更新となり、その94.5%が破産だったという。民事再生のような再建型はほとんど見られない。
小規模事業者は、危機に陥ってから立て直す時間も資金も持たない。当メディアで撤退の判断について論じた際にも触れたが、粘りすぎれば選択肢そのものが消える。
そして忘れてはならないのが、報じられる倒産が氷山の一角だという点だ。倒産は負債1,000万円以上で法的整理に至ったケースを指す。手元に資金があるうちに自主的に閉じる休廃業や解散は、統計に表れにくい。
増えながら、潰れている。参入が続く一方で退出も続き、その裏で事業の譲渡が進む。三つが同時に起きているのが、いまの局面だ。
こうした動きを、自分には関係ないと見るべきではない。
第一に、自事業所が譲渡の対象になりうるという認識だ。Amu.あむは5拠点、精神科特化という強みを持っていた。買い手にとって魅力的なのは、規模の大きさよりも、専門性と地域での実績である。当メディアで論じたとおり、定着のよい組織と、数字で経営が見える化された事業所は、規模が小さくても評価される。
第二に、地域の競合構図が変わりうるという点だ。近隣のステーションが大手の傘下に入れば、採用の条件も営業の力も変わる。地域で長く選ばれてきた関係が、資本の力で塗り替えられることもある。当メディアで扱った紹介経路の固定化は、逆向きにも働く。
第三に、選択肢を早めに持っておくことだ。譲渡は、追い詰められてから探すものではない。買い手がつくうちに動けば、スタッフの雇用も利用者のケアも守れる。
一つ確かなことがある。運営する会社が変わっても、その地域で訪問看護を必要としている人はそこにいる。
Amu.あむの利用者にとって、株主がLITALICOからALTWELLに変わったこと自体は、日々のケアと直接の関係はない。担当の看護師が変わらず訪問を続けるなら、暮らしは続く。M&Aが評価されるべきは、まさにその点にある。事業が閉じられれば、ケアは途切れてしまう。
とはいえ、資本の動きが現場に何ももたらさないわけではない。方針が変わり、評価の基準が変わり、人が入れ替わることもある。
上場企業が買い、そして手放す。参入ラッシュの次に来るのは、こうした入れ替えの局面だ。事業所数が増え続ける裏側で、誰がその事業所を持っているかは静かに変わっていく。自分たちはどの立場で、この局面に臨むのか。買う側か、売る側か、それとも独立を保つのか。答えを急ぐ必要はないが、局面が変わったという認識は持っておきたい。