2026年6月1日施行の診療報酬改定で、訪問看護の複数名訪問看護加算と難病等複数回訪問加算が大幅に見直されます。これまで一律だった算定額が、同一日・同一建物内で算定する人数に応じて細分化される構造に変わります。
これは、ホスピス型住宅やサービス付き高齢者向け住宅のような集合住宅で、大人数への効率的な訪問を行ってきた事業者に対する適正化措置として位置づけられています。一方で、適正に訪問看護を提供している事業者にとっても、レセプト請求方法の根本的な変更となります。
施行まで残り1か月余り。経営者・管理者として、変更内容を正確に理解し、6月1日からの円滑な算定開始に向けて準備する必要があります。HokanPress編集部では、今回の見直しのポイントを整理しました。
まず、今回の見直しの全体像を確認します。
2026年6月1日施行で見直される主な加算は以下の通りです。
第一に、難病等複数回訪問加算。同一日に2回以上訪問する場合に算定可能な加算です。
第二に、夜間早朝加算。夜間(18時〜22時)、早朝(6時〜8時)の訪問時に算定可能な加算です。
第三に、深夜加算。深夜(22時〜翌6時)の訪問時に算定可能な加算です。
第四に、複数名訪問看護加算。看護師2名以上で訪問する必要がある場合の加算です。
第五に、複数名精神科訪問看護加算。精神科訪問看護で看護師2名以上での訪問が必要な場合の加算です。
これらすべてが、同一日・同一建物内の算定人数に応じた評価へ変更されます。
変更後の基本構造は、以下のような階段的な区分となります。
例えば、保健師・助産師・看護師の場合の区分:
人数が増えるほど、1人あたりの算定額が段階的に下がる構造となります。
今回の見直しの背景には、複数の構造的問題があります。
第一に、集合住宅での大人数訪問の効率性。ホスピス型住宅やサ高住では、1日に10人、20人、時には50人を超える利用者への訪問が行われています。これらの大規模訪問では、移動コストや事務コストが少なくなるため、単価を細分化することで「効率性に応じた評価」を実現する設計です。
第二に、2025年に表面化した不正請求問題。サンウェルズによる約28億円の不正請求、医心館等での同様の疑惑など、集合住宅併設の訪問看護で問題が表面化しました。今回の見直しは、こうした問題への構造的な対応の一つです。
第三に、医療費の適正化。中央社会保険医療協議会の議論では、訪問看護療養費の急増(2008年648億円→2023年6,072億円、約9.4倍)に対する適正化が継続的に議論されてきました。
これらの背景から、適正な看護提供を維持しつつ、効率性に応じた評価を行う制度設計となりました。
ここから、各加算の変更内容を整理します。
難病等複数回訪問加算は、同一日に2回以上訪問する場合に算定可能な加算です。
主な変更点:
これまでは、訪問人数に関わらず一律の算定額でした。改定後は、同一日・同一建物内で算定する人数に応じた区分が新設されます。
区分の例:
具体的な点数は、3月発表の告示で示されています。レセプトソフトのアップデートで対応が進められていますが、経営者として、自ステーションの算定見込みを再計算する必要があります。
夜間早朝加算は、夜間(18時〜22時)と早朝(6時〜8時)の訪問時に算定可能な加算です。
主な変更点:
難病等複数回訪問加算と同様に、同一日・同一建物内の算定人数に応じた区分が新設されます。
階段的評価の構造:
夜間早朝訪問の必要性は変わりませんが、同一建物内で複数人に対応する場合の効率性が反映される設計です。
深夜加算は、深夜(22時〜翌6時)の訪問時に算定可能な加算です。
主な変更点:
夜間早朝加算と同様の階段的評価が導入されます。
深夜訪問は看護師の負担が特に大きい時間帯ですが、同一建物内で複数人に対応する場合の効率性は反映される構造です。看護師の負担への配慮と、効率性への評価のバランスを取る制度設計と言えます。
複数名訪問看護加算は、看護師2名以上で訪問する必要がある場合の加算です。
主な変更点:
複数名訪問加算でも、同一日・同一建物内の算定人数に応じた評価が導入されます。
ただし、複数名訪問の医学的必要性は変わりません。利用者の状態、ご家族の状況、安全確保の必要性などから、複数名訪問が必要な場合の評価は維持されます。
複数名精神科訪問看護加算は、精神科訪問看護で看護師2名以上での訪問が必要な場合の加算です。
主な変更点:
精神科訪問看護でも、複数名訪問の評価が同一日・同一建物内の人数に応じた区分となります。
精神疾患を持つ利用者への複数名訪問は、特に安全確保の観点から重要な体制です。医学的必要性に基づく算定は維持されつつ、効率性が反映される構造です。
今回の見直しが、ステーション経営に与えるインパクトを試算します。
利用者構成:
影響:
このタイプのステーションでは、今回の改定の影響は限定的です。
利用者構成:
影響:
このタイプのステーションでは、収益構造の根本的な見直しが必要となります。
利用者構成:
影響:
このタイプのステーションでは、ビジネスモデルそのものの転換を求められる可能性があります。
これらの試算から、今回の見直しが特定のビジネスモデルに集中的な影響を与える構造であることが分かります。
国の方針として、適正に訪問看護を提供する事業者は影響が少ない一方、効率性に過度に依存した運営をしてきた事業者には大きな影響が出る設計となっています。
施行まで残り1か月余り。経営者・管理者が今すぐやるべき5つのことを整理します。
まず、過去6か月の算定実績を分析します。
分析項目:
これらを把握することで、今回の改定が自ステーションに与える影響の規模が見えます。
過去の算定実績をもとに、6月以降の収益試算を行います。
試算方法:
この試算により、今回の改定が自ステーションの収益に与える影響額が明確になります。
レセプトソフトベンダーが、6月施行に向けて対応を進めています。
確認項目:
レセプトソフトの対応が遅れると、6月以降の算定で混乱が生じます。ベンダーに直接確認することが重要です。
新しい算定区分に対応するため、訪問記録様式の見直しが必要です。
追加すべき記録項目:
訪問記録は算定の根拠となるため、新区分に対応した記録様式が必須となります。
改定内容を、現場スタッフに丁寧に説明します。
説明すべき内容:
スタッフが改定を理解していないと、現場での記録ミスや算定ミスが発生します。施行前の周知が、円滑な運用の前提となります。
今回の改定は、レセプト請求実務にも大きな変更をもたらします。
同一日・同一建物内の訪問人数を、レセプトごとに正確に判定する必要があります。
判定のポイント:
これらを誤ると、算定エラーや返還リスクにつながります。
新しい算定区分の根拠として、訪問記録の精度がさらに重要となります。
記録すべき項目:
形式的な記録では不十分で、客観的事実に基づく具体的な記録が求められます。
新しい算定区分に基づく実地指導では、新区分の運用が確認対象となります。
実地指導での確認項目:
実地指導対応のため、算定根拠資料の整理・保存が重要となります。
月次レセプト提出前に、新しい算定区分の確認体制を整える必要があります。
確認体制:
これらを月次フローに組み込むことで、適切な算定が継続できます。
特に影響が大きいホスピス型住宅・サ高住併設の事業者は、より踏み込んだ対応が必要です。
これまでの収益構造が、改定後も維持できるかを冷静に評価します。
検討項目:
検討結果次第では、ビジネスモデルの転換が必要となる場合があります。
「20分ルール」(精神科訪問看護で導入される最低訪問時間20分の基準)とともに、訪問の質の見直しが求められます。
質の見直し項目:
質の高い訪問看護を提供することが、長期的な経営継続の前提となります。
ホスピス型住宅・サ高住との連携関係を透明化することも、重要な対応です。
透明化すべき点:
これらの透明化が、業界全体の信頼回復にもつながります。
それでも経営継続が困難と判断される場合、撤退や事業転換の検討も必要です。
選択肢:
早期の経営判断が、利用者・スタッフへの影響を最小化できます。
集合住宅併設でない一般的な訪問看護ステーションへの影響は限定的ですが、対応すべき点はあります。
たとえ大人数訪問が少なくても、新しい算定区分を理解しておく必要があります。
理解すべき点:
将来的に同一建物内利用者が増える可能性もあるため、制度の理解は必要です。
レセプトソフトのアップデートを確実に行います。
確認項目:
ソフトの対応が遅れると、6月以降のレセプト請求で混乱が生じます。
新しい算定区分に対応するため、訪問記録の質を継続的に向上させます。
向上すべき点:
これは新区分対応だけでなく、実地指導対応や算定リスク管理にも有効です。
新区分の導入で、算定の複雑性が増します。算定漏れを防ぐ仕組みが必要です。
仕組みの例:
算定漏れは、年間で数十万円から数百万円の収益機会の損失につながります。
経営者だけでなく、現場で働く看護師にも影響があります。
新しい算定区分に対応するため、訪問記録の記載項目が増えます。
新記録項目:
これらの記録負担を効率化するため、ICT活用がより重要となります。
新区分に対応するため、業務フローの変更が必要となります。
変更点:
スタッフ間での新しい業務フローの共有が、円滑な運用の前提となります。
ホスピス型住宅併設ステーションで働く看護師には、より大きな影響があります。
影響の側面:
看護師個人として、自身のキャリアを冷静に見直す機会となります。
長期的には、質の高い看護を提供する看護師への評価が高まる構造です。
評価される要素:
「効率性」だけでなく「質」への評価が、看護師のキャリアにとってプラスとなります。
訪問看護を利用する方々への影響も整理します。
集合住宅入居者では、過剰な訪問頻度の見直しが行われる可能性があります。
見直しの方向性:
これは利用者にとって、より適切な看護が受けられる方向への変化です。
これまで「併設ステーションしか選べない」状況だった利用者にとって、事業所選択の自由が回復する可能性があります。
利用者の権利:
これらは利用者の正当な権利として、改めて確認されるべき内容です。
加算の見直しにより、利用者の自己負担額にも変化があります。
自己負担への影響:
事業所として、自己負担額の変更については、利用者・ご家族への事前説明が必要です。
今回の改定が、業界全体にどのような影響を与えるかを整理します。
短期的には、以下のような変化が予想されます。
施行直後は混乱が予想されますが、徐々に新しい運営モデルが定着していきます。
中期的には、業界の質的変化が進みます。
「質」を軸にした業界再編が進む構造です。
長期的な展望としては、以下のような姿が見えてきます。
2026年改定は、こうした長期的変化の出発点です。
最後に、経営者として今回の改定にどう向き合うかの視点を整理します。
今回の改定は、単なる「収益削減」ではありません。「効率性」と「質」のバランスを取り直す構造的な見直しです。
経営者として、「適正な看護提供」が長期的に評価される構造であることを理解し、自ステーションの運営方針に反映させることが重要です。
特定のビジネスモデルでは、短期的に収益が減少する可能性があります。しかし、長期的には適正運営事業者にとってプラスとなる構造です。
短期的な数字に一喜一憂せず、長期的な経営安定を見据えた判断が求められます。
訪問看護経営において、制度の正確な理解は、経営の差別化要因です。
今回の改定のような複雑な変更を、正確に理解し、適切に対応できる経営者と、曖昧にしか理解しない経営者では、3年後の経営状況に大きな差が生まれます。
改定の影響を、スタッフと利用者・ご家族に対して誠実に説明することが、信頼関係の維持につながります。
「複雑だから」「経営の話だから」と隠すのではなく、関係者全員で共有することが、組織と地域の信頼を支えます。
今回の改定への対応は、目の前の問題対応だけでなく、業界の未来への投資でもあります。
質の高い訪問看護を提供する事業者が評価される業界へ。経営者として、その実現に向けて、地道な取り組みを続けていきたいと考えます。
複数名訪問看護加算、難病等複数回訪問加算、夜間早朝加算、深夜加算、複数名精神科訪問看護加算——これらの加算が2026年6月1日施行で大幅に見直されます。同一日・同一建物内の算定人数に応じた階段的評価が導入され、レセプト請求実務に大きな変更が生じます。
施行まで残り1か月余り。経営者・管理者として、自ステーションの算定実績の分析、6月以降の収益試算、レセプトソフトの対応確認、訪問記録様式の見直し、スタッフへの説明を、確実に進めていただきたいと考えます。
ホスピス型住宅・サ高住併設の事業者にとっては、ビジネスモデルそのものの再検討が必要となる場合もあります。一般的な訪問看護ステーションへの影響は限定的ですが、制度の正確な理解と算定漏れの防止は、すべての事業者に共通する課題です。
2026年改定は、業界の質的変化の出発点です。質の高い訪問看護を提供する事業者が、適正に評価される構造への移行が始まります。経営者として、この転換点を自ステーションの成長機会として活かしていただきたいと願います。