2026年8月1日から、医療保険をめぐる仕組みが、一つ変わります。
期限の切れた健康保険証を持参した患者さんについて、これまで例外的に認められてきた「保険診療を受けられる」という暫定措置が、7月末をもって終了するのです。厚生労働省は、社会保障審議会の医療保険部会において、この措置を予定どおり終了する考えを明確にしました。
8月以降、保険診療を受けるために必要になるのは、マイナ保険証か、資格確認書です。
これは、医療機関の窓口だけの話ではありません。医療保険で訪問看護を利用している方にとっても、そして訪問看護ステーションの実務にとっても、関わりのある変更です。期限は、目前に迫っています。今回は、7月中に確認しておきたいことを、整理してお届けします。
まず、何が終わるのかを、正確に押さえておきましょう。
従来の健康保険証は、2024年12月2日をもって、新規の発行が終了しました。すでに発行されていた保険証には、最大1年間という経過措置が設けられていましたが、その期限も、2025年12月1日で切れています。つまり、従来の健康保険証は、法律上、すでに有効ではありません。
それでも、多くの人が、これまで大きな混乱なく医療を受けられてきました。その理由が、暫定的な措置にあります。期限が切れていることに気づかないまま、古い保険証を持って受診した患者さんについて、その保険証に書かれた被保険者番号などから資格情報を確認できる場合には、暫定的に保険を適用した医療——つまり、1割から3割の窓口負担で受診できるようにする、という取り扱いが認められてきたのです。
この暫定措置が、2026年7月末で終わります。厚生労働大臣も、さらなる延長は考えていないという考えを示しており、これが最終的な期限となる見込みです。
では、8月1日以降、保険診療を受けるために必要なものは何でしょうか。
必要なのは、次のいずれかです。一つは、マイナ保険証。マイナンバーカードに健康保険証の機能を登録したもので、スマートフォンに搭載したものも含まれます。もう一つは、資格確認書です。
資格確認書は、マイナ保険証を利用登録していない方に対して、加入している健康保険組合や協会けんぽ、市町村国保などから交付されているものです。マイナ保険証の利用登録をしていない方には、2025年7月下旬から10月下旬にかけて、順次郵送されています。従来の健康保険証と同じように使えるものですので、お手元にあるかどうか、確認しておきたいところです。
なお、マイナ保険証と資格確認書は、どちらかを選べばよいものです。マイナンバーカードを持っていない、あるいは保険証として使いたくない、という方は、資格確認書を使えば、これまでどおり保険診療を受けられます。
では、8月1日以降に、期限切れの健康保険証しか持っていない場合は、どうなるのでしょうか。
この場合、「保険証を忘れた場合と同様」の扱いになります。具体的には、いったん窓口で医療費の全額を支払い、その後、加入している健康保険組合や協会けんぽ、市町村国保などに、差額分——つまり7割から9割にあたる金額を請求して、払い戻しを受けることになります。
いわゆる償還払いです。最終的に自己負担の割合は変わりませんが、一時的とはいえ、窓口で全額を支払う必要が生じます。そして、あとから払い戻しの手続きを、自分で行わなければなりません。高齢の方や、その手続きを支える家族にとって、これは決して小さな負担ではないでしょう。
ここで、訪問看護との関わりを整理しておきます。
訪問看護は、医療保険と介護保険の二つの制度にまたがるサービスです。介護保険で訪問看護を利用している場合は、介護保険証に基づいてサービスを受けますが、医療保険で訪問看護を利用している場合には、今回の変更が関わってきます。末期がんや神経難病などで医療保険による訪問看護を受けている方、特別訪問看護指示書が出ている期間の方、精神科訪問看護を利用している方などが、これにあたります。
そして、注意しておきたいのが、移行の状況です。厚生労働省が2026年3月に公表した数値によると、2026年2月時点のマイナ保険証の利用率は、およそ50%でした。2人に1人は、まだマイナ保険証を使っていない計算になります。
訪問看護の利用者には、高齢の方、独居の方、身体の状態から外出が難しい方が多くいらっしゃいます。マイナンバーカードの取得や利用登録の手続きが進んでいなかったり、資格確認書が届いていることに気づいていなかったりするケースは、決して珍しくないと考えられます。ご本人は「保険証はあるから大丈夫」と思っていても、それが期限切れのものである、ということが起こりえます。
訪問看護師は、利用者の自宅に上がり、その暮らしを間近で見ている立場にあります。だからこそ、8月を前に、手元にある証書を一緒に確認できる位置にいるのです。
事業所側の実務についても、整理しておきます。
医療保険による訪問看護では、2024年12月から、オンライン資格確認が義務化されています。これは、利用者のマイナンバーカードから、医療保険の資格情報を、訪問看護ステーションが用意したモバイル端末で読み取る仕組みです。
訪問看護の場合、医療機関の窓口のような顔認証付きの機器ではなく、看護師が利用者宅へ持参したタブレットなどの端末を使います。これを「居宅同意取得型」と呼びます。ステーションが利用者のマイナンバーカードを預かる必要はなく、初回の訪問時に、ご本人が4桁の暗証番号を入力して本人確認を行い、カードを端末にかざすことで、資格を確認します。訪問のたびに確認を求めるものではなく、初回に包括的な同意を得る形になっており、2回目以降は、ステーション側での再照会が可能です。
そして、利用者がマイナンバーカードを持っていない場合や、読み取りにエラーが生じた場合には、資格確認書などによって資格を確認することになります。
この仕組みは、事業所にとっても利点があります。最新の資格情報をその場で確認できるため、レセプトが返戻となるケースを減らせること、被保険者番号などを手で入力する作業が不要になることなどが挙げられます。裏を返せば、8月以降、利用者の資格情報が確認できない状態が生じれば、請求の実務にも影響が及ぶ、ということでもあります。
期限まで、残りわずかです。7月のうちに確認しておきたいことを、整理します。
まず、利用者・ご家族の側です。手元にある証書が何なのかを、確認してください。マイナ保険証の利用登録をしているか。していない場合、資格確認書が届いているか。届いているなら、どこに保管しているか。古い健康保険証だけを持っている状態になっていないか。ご高齢の方の場合、ご家族が一緒に確認しておくと安心です。
次に、訪問看護ステーションの側です。医療保険で訪問看護を提供している利用者について、資格の確認手段が整っているかを、あらためて点検しておきたいところです。マイナ保険証を持っていない利用者には、資格確認書が手元にあるかを確認し、見当たらない場合には、加入している保険者への問い合わせを案内する。8月以降に慌てることのないよう、7月中に一度、声をかけておくことが、利用者を守ることにつながります。
制度の変更は、それを知っている人には小さな手続きの話ですが、知らないまま8月を迎えた人にとっては、思わぬ負担になります。訪問看護の現場は、その「知らないまま」を防げる、数少ない接点の一つです。
医療のデジタル化は、少しずつ進んでいます。オンラインでの資格確認は、正確な情報に基づく医療につながり、事業所にとっても、事務の負担を減らす仕組みです。その意味で、この移行には、前向きな側面があります。
一方で、移行の途中では、取り残される人が出やすいのも事実です。デジタルの手続きに不慣れな方、外出が難しい方、支える家族が近くにいない方。訪問看護が関わっているのは、まさにそうした状況にある方々です。
8月1日まで、残りわずかです。訪問のついでに、「保険証、いま何をお持ちですか」と、一言たずねてみる。その小さな確認が、8月以降の思わぬ負担を防ぐことにつながります。制度の切り替わりを、静かに越えていくために。7月のうちに、できることを確認しておきましょう。