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訪問看護ステーションのM&Aが急増する5つの理由|2026年改定後の事業承継と買収相場の実態

宮木 · 2026年6月11日
訪問看護ステーションのM&Aが、近年急速に増加しています。2025年の倒産件数176件という過去最多の数字、後継者問題、2026年改定による経営難——複数の要因が連動して、業界の再編が加速しています。M&Aを検討する経営者として10年余り運営してきた立場から、急増の理由、買収相場の実態、判断すべき要素を整理しました。

訪問看護ステーションのM&A(合併・買収)が、近年急速に増加しています。私自身、訪問看護ステーション経営者として10年余り運営してきた中で、同業者からの「事業承継相談」「買収検討」の声を聞く機会が、年々増えています。

2025年の介護事業者倒産176件という過去最多の数字、後継者問題、2026年改定による経営難、業界の二極化——複数の要因が連動して、業界の再編が加速している現実があります。「いつかは事業承継」と漠然と考えていた経営者が、急に売却を検討せざるを得なくなるケースも少なくありません。

本記事では、訪問看護ステーションのM&Aが急増している5つの理由、買収相場の実態、経営者として判断すべき要素について、率直に整理します。M&Aを検討している経営者の方、将来の事業承継を考える経営者の方、業界の動向を把握したい関係者の方々に、判断材料となれば幸いです。

訪問看護M&Aが急増する5つの理由

まず、なぜ訪問看護ステーションのM&Aが急増しているのか、構造的な5つの理由を整理します。

理由1: 経営者の高齢化と後継者不在

最も大きな理由が、経営者の高齢化と後継者不在の問題です。

業界の構造:

  • 開業ブームの第一世代経営者の引退期
  • 60代〜70代の経営者の増加
  • 家族・親族での承継困難
  • 内部スタッフへの承継のハードル
  • M&A以外の選択肢の限界

訪問看護ステーションの多くは、1990年代後半から2000年代に開業しました。その経営者たちが、20〜30年の運営を経て、引退の時期を迎えています。

「子どもは看護師ではない」「内部スタッフに承継したいが資金がない」——こうした状況で、外部資本へのM&Aが現実的な選択肢として浮上します。

理由2: 経営難からの撤退選択

2025年の倒産176件が示すように、経営難からの撤退も大きな要因です。

経営難の構造:

  • 人件費の継続的上昇
  • 看護師確保の困難
  • 物価高騰によるコスト増
  • 利用者獲得の競争激化
  • 制度変更への対応負担

倒産という最悪の事態を避けるため、事業価値があるうちにM&Aで売却する経営判断が増えています。

理由3: 2026年改定の構造的影響

2026年6月施行の改定が、業界再編を加速しています。

改定の影響:

  • 包括型訪問看護療養費新設による収益構造変化
  • 機能強化型取得の難しさ
  • 加算1.8%だけでは賃上げ困難
  • ICT投資の必要性
  • 多職種連携の高度化

単独事業所での対応に限界を感じた経営者が、大規模法人グループへの参画を選択するケースが増えています。

理由4: スケールメリットの追求

買収側にとってのスケールメリットも、M&A急増の理由です。

スケールメリット:

  • 機能強化型取得の容易化
  • 共通バックオフィスによるコスト削減
  • ICT投資の分散
  • スタッフ採用力の向上
  • 連携先関係の強化
  • ブランド力の確立

複数事業所を運営する法人にとって、買収による拡大は経営戦略の中核となっています。

理由5: 投資ファンドの参入

近年は、投資ファンドの訪問看護業界への参入も活発化しています。

ファンド参入の構造:

  • ヘルスケア領域への投資意欲
  • 訪問看護市場の成長性
  • ロールアップ戦略(複数買収による大規模化)
  • 経営効率化による収益向上
  • 数年後の再売却(エグジット)

これにより、M&A市場の活性化と買収価格の高止まりが進んでいます。

訪問看護M&Aの買収相場

買収相場は経営者の最大の関心事です。業界の一般的な傾向を整理します。

評価の基本構造

訪問看護ステーションのM&A評価は、複数の指標を組み合わせて行われます。

主な評価指標:

  • 年間売上高
  • EBITDA(償却前利益)
  • 利用者数・継続率
  • 看護師数・経験年数
  • 機能強化型取得状況
  • 連携先関係の質
  • 地域でのポジション

これらが総合的に評価されます。

一般的な買収倍率

業界の一般的な買収倍率は、以下のような傾向です。

買収倍率の傾向:

  • EBITDA倍率: 3〜7倍程度
  • 売上高倍率: 0.5〜1.5倍程度

これらは大まかな目安であり、個別案件では大きく異なる場合があります。

高く評価されるステーションの特徴

買収市場で高く評価されるステーションには、共通の特徴があります。

高評価の特徴:

  • 機能強化型1または2を取得
  • 安定した利用者構成
  • ベテラン看護師の定着
  • 連携病院との強い関係
  • 黒字経営の継続(複数年)
  • ICT・DX投資が進んでいる
  • 内部統制が整っている
  • スタッフの定着率が高い

これらすべてを満たすステーションは、買収市場でも複数の引き合いがある状況です。

低く評価されるステーションの特徴

一方、買収市場で評価が下がるステーションの特徴もあります。

低評価の特徴:

  • 通常型のまま
  • 看護師の頻繁な離職
  • 利用者数の減少傾向
  • 赤字または利益率の低さ
  • 内部統制の不備
  • 不適切請求の疑い
  • スタッフ給与の遅延
  • 連携先関係の希薄化

これらに該当するステーションは、買収市場での価格が低くなる、または買い手がつかない場合もあります。

「のれん代」の意味

買収時の「のれん代」の意味も、経営者として理解すべき要素です。

のれん代の構造:

  • 純資産を超えて支払われる金額
  • ブランド力・顧客基盤への対価
  • 経営者の経営力への評価
  • 将来収益への期待
  • スタッフ・連携先への投資

のれん代が高いほど、買収先からの評価が高い証明となります。

M&Aの主な形態

訪問看護ステーションのM&Aには、複数の形態があります。

形態1: 株式譲渡

法人ごと譲渡する最も一般的な形態です。

株式譲渡の特徴:

  • 法人格を維持
  • 取引関係・契約関係を継承
  • スタッフの雇用も継続
  • 利用者への影響を最小化
  • 譲渡対価は経営者個人へ

事業の継続性を重視する場合に選ばれる形態です。

形態2: 事業譲渡

事業の一部または全部を譲渡する形態です。

事業譲渡の特徴:

  • 譲渡対象を選択可能
  • 不要な資産・負債を除外
  • 個別の契約承継が必要
  • スタッフは個別同意が必要
  • 譲渡対価は法人へ

複数事業を運営する法人で、訪問看護事業のみを譲渡する場合などに用いられます。

形態3: 合併

複数の法人が一つになる形態です。

合併の特徴:

  • 完全な統合
  • スケールメリットの最大化
  • ブランド統合
  • 大規模な組織変更
  • 手続きが複雑

大規模なM&Aで選ばれる形態です。

形態4: 業務提携

法人格を維持しつつ、業務面で協力する形態です。

業務提携の特徴:

  • 法的な統合は伴わない
  • 緩やかな連携
  • 撤退も容易
  • スケールメリットは限定的
  • 段階的な統合への準備

本格的なM&Aの前段階として活用されることもあります。

経営者として判断すべき5つの要素

訪問看護経営者としてM&Aを検討する際の、5つの判断要素を整理します。

要素1: 自ステーションの現実的な選択肢

まず、自ステーションの現実的な選択肢を整理します。

選択肢の例:

  • 単独で経営を継続する
  • M&Aで売却する
  • 法人グループに参画する
  • 内部スタッフに承継する
  • 段階的に縮小・撤退する

それぞれの選択肢のメリット・デメリットを冷静に評価することが、出発点となります。

要素2: 売却タイミングの判断

M&Aを検討する場合、タイミングが極めて重要です。

良いタイミング:

  • 経営が黒字で安定している時
  • 看護師が定着している時
  • 利用者数が安定している時
  • 連携先関係が良好な時
  • 経営者の体力・気力がある時

悪いタイミング:

  • 経営が悪化している時
  • 看護師の離職が続いている時
  • 利用者数が減少している時
  • 経営者が体調を崩している時
  • 業界全体が低迷している時

「事業価値があるうち」に判断することが、適正な売却価格につながります。

要素3: 買収先の選定基準

買収先を選ぶ基準も、慎重に設定する必要があります。

選定基準:

  • 経営理念の合致
  • スタッフへの処遇方針
  • 利用者ケアへの考え方
  • 地域貢献の姿勢
  • 既存スタッフの雇用継続
  • 経営者自身の処遇
  • 譲渡後の関わり方

価格だけでなく、引き継いだ後にどう運営されるかが重要です。

要素4: スタッフ・利用者への配慮

M&Aで最も重要な配慮対象が、スタッフと利用者です。

スタッフへの配慮:

  • 雇用継続の保証
  • 処遇の維持・改善
  • 経営理念の説明
  • 不安への丁寧な対応
  • キャリアパスの提示

利用者・家族への配慮:

  • 看護師の継続性
  • ケアプランの一貫性
  • 担当看護師の変更最小化
  • 質の維持
  • 信頼関係の継承

「経営者の都合」だけで進めるM&Aは、結果として失敗します。

要素5: 専門家の活用

M&Aは複雑な手続きを伴うため、専門家の活用が不可欠です。

活用すべき専門家:

  • M&A仲介会社
  • 公認会計士・税理士
  • 弁護士
  • 経営コンサルタント
  • 業界に精通したアドバイザー

専門家への報酬は発生しますが、長期的には適正な取引と経営者の利益保護につながります。

買収側として考えるべきこと

買収を検討する側の経営者にも、考えるべき要素があります。

買収戦略の明確化

なぜ買収するのかを、戦略的に明確化することが重要です。

買収目的の例:

  • 機能強化型取得の早期実現
  • スケールメリットの追求
  • 新規地域への進出
  • 専門領域の獲得
  • 看護師確保

目的が曖昧な買収は、統合後に問題を生みます。

デューデリジェンスの徹底

買収先の状況を、徹底的に調査する必要があります。

調査項目:

  • 財務状況の精査
  • 利用者構成の確認
  • スタッフ構成と給与
  • 連携先関係
  • 不適切請求の有無
  • 訴訟・トラブルの有無
  • 設備・ICT環境

不適切請求やトラブルを抱える事業所を買収すると、買収側にもリスクが波及します。

統合プロセスの計画

買収後の統合(PMI: Post-Merger Integration)を、事前に計画することが重要です。

統合計画の要素:

  • 経営理念の統合
  • 業務フローの統合
  • ICTシステムの統合
  • 人事制度の統合
  • ブランドの整理
  • スタッフへの説明

統合プロセスの失敗が、M&A失敗の最大要因です。

スタッフへの誠実な対応

買収側として、買収先のスタッフへの誠実な対応が不可欠です。

誠実な対応の要素:

  • 雇用継続の確約
  • 処遇の維持・改善
  • 経営理念の共有
  • キャリアパスの提示
  • 不安への対応

「買収したから当然従う」という姿勢では、スタッフの離職を招き、結果としてM&Aの目的が達成されません。

業界の今後の展望

訪問看護M&Aの今後の展望を、整理します。

短期的な展望(2026年〜2027年)

短期的には、M&A市場の活性化が続くと予想されます。

予想される動き:

  • 経営難ステーションの売却増加
  • 法人グループによる買収増加
  • 投資ファンドの参入継続
  • M&A仲介会社の活発化
  • 業界再編の加速

2026年改定後の経営状況次第で、M&A件数はさらに増加する可能性があります。

中期的な展望(2027年〜2030年)

中期的には、業界の質的変化が進みます。

予想される変化:

  • 大規模法人グループの形成
  • 中小事業者の選別
  • 質の高いステーションへの集中
  • 多職種統合型法人の増加
  • 地域包括ケアでの中核化

業界の集約化と質的向上が、同時並行で進む構造です。

長期的な展望(2030年以降)

長期的には、業界の構造そのものが変化します。

長期的な姿:

  • 大規模法人グループの安定的運営
  • 専門特化型ステーションの並立
  • 多職種連携の標準化
  • ICT・DXによる業務革新
  • 看護師の社会的地位向上

訪問看護業界が、より体系的・組織的に発展する方向性です。

経営者として持つべき視点

訪問看護M&Aに向き合う経営者として、持つべき視点を整理します。

視点1: 早期からの準備

M&Aは、急に決断するものではありません。

早期準備の意義:

  • 事業価値の最大化
  • スタッフへの十分な説明
  • 利用者への配慮期間
  • 専門家との関係構築
  • 適切な判断時期の見極め

「いつかは」ではなく、「具体的に何年後を目標とするか」を考えることが重要です。

視点2: 数字で経営を見る

M&Aを視野に入れるなら、経営を数字で把握する習慣が不可欠です。

把握すべき数字:

  • 月次・年次の損益
  • 利用者数の推移
  • スタッフ構成と給与
  • キャッシュフロー
  • 連携先別の紹介実績

これらが整理されていない経営は、M&A市場で適正な評価を得られません。

視点3: スタッフへの責任

M&Aを検討する経営者には、スタッフへの最大の責任があります。

責任の内容:

  • 雇用継続の確保
  • 適正な処遇の継続
  • キャリアパスの保証
  • 不安への対応
  • 誠実な情報共有

「経営者の利益」だけを追求するM&Aは、業界全体の信頼を損ねます。

視点4: 利用者・地域への責任

利用者・地域社会への責任も忘れてはなりません。

責任の内容:

  • ケアの継続性
  • 質の維持
  • 担当看護師の継続
  • 地域連携の維持
  • 撤退時の最善対応

訪問看護は、地域社会の一員として責任を負う事業です。

視点5: 業界全体への貢献

最後に、業界全体への貢献という視点も持ちたいです。

貢献の方向性:

  • 適正なM&A事例の蓄積
  • 後進への経験共有
  • 業界団体への参加
  • メディアでの情報発信
  • 制度提言への参加

自身の経験が、業界全体の発展につながる視点を持つことが、経営者としての成熟です。

まとめ

訪問看護ステーションのM&Aは、経営者の高齢化、経営難からの撤退、2026年改定の構造的影響、スケールメリットの追求、投資ファンドの参入——5つの構造的理由により、急増しています。

買収相場は、EBITDA倍率3〜7倍、売上高倍率0.5〜1.5倍程度が業界の一般的な傾向です。機能強化型取得、安定した利用者構成、ベテラン看護師の定着、連携病院との強い関係、黒字経営の継続などの要素が、買収市場での評価を高めます。

経営者として判断すべき5つの要素(自ステーションの現実的選択肢、売却タイミング、買収先選定、スタッフ・利用者への配慮、専門家の活用)を、冷静に整理することが、適切なM&A判断の出発点となります。

業界の今後の展望としては、短期的なM&A市場の活性化、中期的な業界の質的変化、長期的な業界構造の再編が予想されます。経営者として、早期からの準備、数字での経営把握、スタッフ・利用者・地域への責任、業界全体への貢献という視点を持って、自ステーションの未来を切り開いていきたいと考えます。

M&Aは「売却」「撤退」というネガティブな選択肢ではなく、事業価値を継承し、スタッフと利用者を守り、地域医療を継続するための、積極的な経営判断でもあります。経営者として、この選択肢を視野に入れた長期的な経営戦略を持つことが、これからの時代に求められる姿勢です。

HokanPressでは、訪問看護経営の本質的なテーマについて、引き続き発信してまいります。

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