当メディアで人材紹介の手数料を扱った際、看護師一人の採用に理論年収の20%から25%、金額にして100万円規模がかかることをお伝えした。医師・看護・介護の三分野で、紹介手数料の総額は年およそ1,139億円に達している。
そのとき私は、紹介会社を使う前に自事業所で整えられる条件を先に整えておくべきだと書いた。今回はその続きになる。具体的に何を整え、無料で使える仕組みをどう活用するのか。
結論から述べる。多くの事業所は、無料で使える採用の道具を、使い切らないまま手数料を払っている。
まず押さえておきたいのが、都道府県ナースセンターの仕組みだ。
全国47都道府県のナースセンターは、職業安定法に基づく無料職業紹介事業として運営されている。無料職業紹介事業とは、いかなる名義でも手数料や報酬などの対価を受けないで行う職業紹介を指す。ハローワークや大学の就職課と同じ位置づけになる。
対して人材紹介会社は有料職業紹介事業であり、求職者を紹介することで求人施設から手数料を受け取る。同じ「紹介」でも、制度上の性格がまったく異なる。
ナースセンターのインターネット版が、eナースセンターだ。ここで多くの経営者が知らないのが、事業所側からできることの範囲である。
求人情報をインターネット上で登録できるのは、想像がつくだろう。だが、それだけではない。求人施設は、システムを通じて求職者へ直接メッセージを送ることができる。オファーを希望している看護職に対して、こちらから声をかけられるのだ。求職者の側からも、直接応募を受け取れる。
登録も難しくない。求人施設の登録ボタンから必要事項を入力し、受領通知のメールに記載されたURLから施設情報を登録する。メールアドレスを持たない場合は、求人登録票をダウンロードして都道府県のナースセンターへファクスで申し込むこともできる。
費用はかからない。にもかかわらず、登録していない訪問看護ステーションは少なくない。
もう一つ、見落とされている点がある。ナースセンターが行っている研修や支援の中身だ。
ブランクのある看護職に対しては、最新の医療や看護に関する再就業支援研修、体験研修、看護職同士の交流会などが用意されている。そして訪問看護や介護施設といった新たな領域にチャレンジする人に向けては、入門研修や施設見学が実施されている。
つまりナースセンターには、訪問看護に関心を持ちながら一歩を踏み出せずにいる看護師が集まっている。当メディアで向き不向きを論じた際にも触れたが、この分野は不安を抱えて検討している人が多い。その層に、無料で接触できる場があるということだ。
背景として、看護師等の人材確保の促進に関する法律に基づき、離職時などにナースセンターへ届け出ることが努力義務とされている点も押さえておきたい。潜在看護師とつながる公的な導線が、そこにある。
もう一つの無料チャネルが、ハローワークだ。求人を出したことのある経営者は多いだろうが、次の制度を知っているだろうか。
求人者訪問サポートという仕組みがある。応募者が来ない、応募はあるが採用に至らない、効果的な求人票の書き方を知りたい。そうした求人者の悩みに対し、ハローワークの職員が事業所を訪問してサポートするものだ。東京の三鷹や八王子をはじめ、各地のハローワークが実施している。
求人票の書き方については、ハローワークや厚生労働省が「求人申込書の書き方」として公開しており、見本も掲載されている。
ハローワークの求人票には、文字数や行数の制限がある。限られた枠で自事業所をどう伝えるかが問われるわけだが、その相談に無料で乗ってくれる相手がいる。使わない手はない。
ここからは求人票そのものの話をしたい。応募が来ないとき、条件が悪いからだと考えがちだが、書き方に原因があることも多い。
参考になる指摘がある。求人票は経営者が作成することが多い。会社やサービスについて、経営者がいちばん知っているからだ。ところが求人票の作成を専門家に依頼したある事業者は、その専門家が自社のスタッフにも仕事内容や会社の特徴をヒアリングしたことに驚いたという。
理由は明快だった。実際に働いているスタッフが感じている魅力や強みを盛り込んだ求人票のほうが、求職者の目に留まる。スタッフ目線で書くことで、求職者は自分が働いている姿を具体的に想像できるようになる。イメージできる求人票が大事だ、という話である。
経営者が書く求人票には、経営者の視点が入る。理念、事業の展望、地域への貢献。どれも大切だが、求職者が知りたいのは「自分がそこで働いたらどうなるか」だ。
明日の朝、スタッフに聞いてみるといい。この職場のどこが働きやすいか。前の職場と何が違うか。入る前に知っておきたかったことは何か。その言葉が、求人票の材料になる。
では具体的に何を書くべきか。当メディアが看護師側の視点で書いてきた記事から、逆算できる。
オンコールについて、当番が月に何回まわるのか。1人体制か2人体制か。実際に電話が鳴る頻度と、出動につながる頻度。待機手当と出動手当の額。看護師が最も不安に思う部分であり、ここを具体的に書けるかどうかで応募の数は変わる。
独り立ちまでの流れも重要だ。同行訪問の期間はどれくらいか。判断に迷ったとき誰に相談できるのか。入職から何か月目でオンコールを担当することになるのか。未経験やブランクのある看護師にとって、ここが最大の関門になる。
給与については、提示する月給が基本給なのか固定残業代を含むのかを明記する。当メディアで給与の内訳を扱った際にも述べたが、訪問看護の年収は手当の設計で大きく変わる。曖昧な提示は、入職後の不信につながる。
そして、対応できることとできないことを正直に書くこと。誇張はかえって信頼を損なう。ケアマネジャーに選ばれる条件について論じたときと、考え方は同じだ。
公平を期すために、無料チャネルの弱点にも触れておく。
即応性では、有料の紹介会社に及ばない。急な欠員が出て、来月までに一人必要だという場面で、ナースセンターやハローワークが確実に応えてくれる保証はない。紹介会社が持つ確実性と速さには、それだけの価値がある。
だから私は、紹介会社を全否定するつもりはない。問題は、無料の導線を整えないまま、採用のたびに手数料を払い続ける構造にある。
現実的な組み立てはこうなる。ナースセンターとハローワークに求人を出し、内容を定期的に磨く。自事業所のホームページで発信を続ける。当メディアで動画の活用を論じたとおり、現場の空気を伝える手段も持っておく。そのうえで、急を要する場面に限って紹介会社を使う。
年に2人を紹介経由で採用すれば200万円。そのうち1人でも直接採用に切り替われば、100万円が浮く。当メディアで訪問1回あたりの利益を試算した際、850円前後という水準を示した。100万円を訪問で稼ぐには、1,000回を超える訪問が要る計算になる。
採用の入り口を整えることは、それだけの価値がある仕事だ。
無料で使える仕組みは、待っているだけでは働かない。登録し、求人票を書き、内容を更新し、問い合わせに素早く応じる。手間はかかるが、費用はかからない。そして手間の部分は、外注できない代わりに、自事業所の色がそのまま出る。スタッフの言葉で書かれた求人票が、次の仲間を連れてくることもある。
まずは自事業所がナースセンターに登録されているか。今日、確認してみてはどうだろうか。