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退院は、回復の途中で訪れる——脳卒中後の在宅生活と訪問看護|再発を防ぐ血圧の記録と、失われた機能ではなくできることを見る視点

未希 · 2026年8月24日
脳卒中で入院した方の多くが、3か月足らずで自宅に戻ります。回復期リハビリ病棟の平均入院日数は約78日。つまり退院は、回復が終わってからではなく、途中で訪れます。だから在宅での継続が、その後の生活を大きく左右します。再発率の高いこの病気で最も大切な血圧の記録、そして片麻痺という喪失とどう向き合うか。訪問看護の現場からお伝えします。

「まだ十分に良くなっていないのに、帰ってきて大丈夫でしょうか」

退院の日が近づいたご家族から、そう聞かれることがあります。その感覚は、実のところ間違っていません。

回復期リハビリテーション病棟の入院期間は、脳血管疾患で最大150日、高次脳機能障害を伴う場合は180日と定められています。ところが近年は早期退院が進み、平均入院日数はおよそ78日。3か月に届かないうちに、多くの方が自宅へ戻ります。

回復が終わってから退院するのではなく、回復の途中で退院する。今日はその続きを、どう家で支えるのかについてお話しします。

再発を、防ぐ

脳卒中の在宅療養には、機能の回復と並ぶ、もう一つの大きな目標があります。再発を防ぐこと。

この病気の再発率は高く、しかも繰り返すほど重症化する傾向があると報告されています。時間をかけて取り戻した機能が、一度の再発で失われてしまう。それを避けることが、家での暮らしを守る土台になります。

血圧手帳という、地味な武器

高血圧は再発の最大の要因の一つです。だから退院後は、毎日の血圧測定をお願いしています。

測るタイミングにコツがあります。朝と夜の2回、できるだけ同じ時間帯に。血圧は一日の中で上下しますから、条件をそろえてこそ本当の傾向が見えてきます。血圧手帳でもスマートフォンのアプリでも、続けやすいほうで構いません。

訪問のたび、その記録に目を通します。上がってきているなと感じたら主治医へ伝え、薬の調整につなげる。ある訪問看護ステーションでは、この確認を続けた結果、退院から半年で家庭血圧の平均が155から128まで下がった方がいたと報告されています。

診察室で測る一回の数値より、毎日の記録のほうが多くを語ってくれます。

薬と、食卓

脳梗塞の後には、血を固まりにくくする薬が処方されることが多くあります。飲み忘れが再発に直結する薬なので、服薬の状況は毎回確認します。あざができやすい、歯ぐきから血が出るといった変化も、副作用のサインとして見ています。

生活の側では、減塩と運動、禁煙が血管を守る基本とされています。減塩の目標は1日6グラム未満。ただ、いきなり薄味にすると食が細くなる方もいます。出汁の風味を効かせる、酢や香辛料を使う。そうやって少しずつ舌を慣らしていくほうが、結局は長続きします。

食べる楽しみを削らずに塩を減らす。この折り合いをどうつけるかは、ご家庭ごとに違います。

冷蔵庫に貼る、一枚のメモ

再発のサインについては、ご家族と必ず共有します。

突然、片方の手足に力が入らなくなる。呂律が回らない。片目が見えにくい。強い頭痛やめまい。こうした症状が突然、体の片側に現れたら、迷わず救急車を呼んでいただきたいのです。

脳卒中の治療は時間との勝負で、発症からの経過時間によって受けられる治療が変わります。「少し様子を見よう」と待った時間が、その後を大きく変えてしまうことがある。だから症状のメモを冷蔵庫に貼っておくご家庭もあります。とっさのときに、人は思い出せないものですから。

動かさなければ、落ちていく

後遺症は主に三つ。麻痺、飲み込みの障害、言葉の障害です。

片麻痺については、退院後に何もしないでいると機能が低下していくことが知られています。関節が固まらないように動かす訓練、立ち上がりの介助、歩行時の安全確認。理学療法士や作業療法士と組んで、その家の間取りに合った動き方を組み立てていきます。廊下の幅、段差の高さ、手すりを付けられる壁。同じ訓練でも、家が変われば内容が変わります。

飲み込みの力が落ちている方には、嚥下の状態を確認しながら食事の形を調整し、口腔ケアを続けます。口の中を清潔に保つことが誤嚥性肺炎を防ぐという話は、以前の記事でお伝えしたとおりです。

言葉が出にくい方とのやりとりでは、待つことが何より効きます。発声の練習やジェスチャーも取り入れますが、焦らせないというだけで、ずいぶん話しやすくなる方がいる。伝わらないもどかしさは、想像以上に深い苦痛です。

看護師が関わる意味は、体全体を見られる点にあります。血圧や脈が不安定な日には、その日のリハビリの内容を安全な範囲に調整する。そうした判断ができることが、専門職の役割です。

できなくなったことと、できること

ここが、いちばん難しい話になります。

片麻痺のある方は、昨日までできていたことが突然できなくなる経験をします。箸が持てない、字が書けない、一人でトイレに行けない。身体の問題であると同時に、心の問題でもあります。

麻痺を完全に元通りにすることは、多くの場合できません。それを曖昧にしたまま「頑張れば治る」と励ますことを、私はしないようにしています。

代わりに探すのは、いまできることです。麻痺のない側を使えば何ができるか。柄を太くしたスプーンなら食べられるか。手すりを付ければ、どこまで自分で行けるか。玄関、トイレ、浴室、階段。手すりの高さや位置は一般的な基準どおりではなく、その方の麻痺の状態に合わせて決めていきます。

失ったものを数え続けるより、残っているものを使って暮らしを組み直すほうへ。時間はかかりますが、そちらのほうが前に進みます。

突然、介護する側になった人へ

脳卒中は、前触れなく訪れます。昨日まで元気だった家族が、ある日を境に介護を必要とする人になる。受け止める時間もないまま退院の日が来て、慣れない介助が始まる。

訪問して最初のころ、ご家族の顔にはたいてい疲れが出ています。介助の方法をお伝えして体の負担を減らすこと、使える制度をご案内すること。それも仕事ですが、いちばん大事なのは、不安を口に出せる場所であることかもしれません。介護する人が倒れてしまえば、在宅の生活は続かないからです。

退院は回復の終わりではなく、生活を組み直す始まりです。血圧を測る。薬を飲む。少しずつ体を動かす。どれも派手さのない習慣ですが、その積み重ねが再発を遠ざけます。

そして、できなくなったことを嘆く時期があっても構わないと思っています。そこから、いまできることへ目が向く日が来る。その日まで伴走するのが、私たちの役目なのだろうと。

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