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特定行為研修の修了者は11,840人、目標10万人に対して12%——訪問看護で進まない三つの壁|加算はあるのに算定できない構造

宮木 · 2026年9月15日
看護師の特定行為研修の修了者は11,840人。政府は2025年までに10万人以上の養成を掲げていたが、達成率は約12%にとどまる。訪問看護に絞ると、事情はさらに込み入っている。人員規模が小さくて研修に出せない、修了しても実施に至らない、そして加算はあるのに医師が手順書を出さなければ算定できない。三つの壁を整理し、2027年度改定の議論にどうつながるかを考える。

看護師の特定行為研修を修了した人は、11,840人である。

厚生労働省の医道審議会保健師助産師看護師分科会、看護師特定行為・研修部会が2025年8月4日に示した資料の数字だ。同じ資料に並ぶ最初の数値は259人だから、制度発足からの伸びは大きい。直近1年で2,705人増え、指定研修機関は462機関になった。

しかし、政府が掲げていた目標は2025年までに10万人以上である。11,840人は、その約12%にあたる。編集部の試算だが、桁が一つ足りない。

そして訪問看護に絞ると、話はさらに込み入る。修了者が少ないことに加えて、修了した人が実施に至らないという問題があるからだ。

研修に出せない規模

まず、研修に出られない。

同部会は2022年12月の回で、在宅・慢性期領域における特定行為研修のハードルを四つ挙げた。訪問看護の人員規模等が小さく研修に出せないこと、研修内容がニーズにマッチしていないこと、十分に周知されていないこと、研修機関が近隣にないことである。

一つ目が決定的だ。訪問看護ステーションの看護職員は1事業所あたり平均5.8人。当メディアで繰り返し扱ってきた数字である。5.8人のうち1人が研修に出れば、残りで訪問を回し、オンコールを回すことになる。

特定行為研修は短期間で終わるものではない。共通科目と区分別科目があり、実習も含まれる。その期間、その看護師の訪問はほかの職員が引き受ける。当メディアで求人倍率4.54倍を扱った際に書いたとおり、欠員が出ても補充できない業界で、自ら一人を抜く判断は簡単ではない。

病院であれば、数百人の看護師のうち数人を研修に出しても回る。訪問看護は回らない。制度は同じでも、規模が違えば意味が変わる。

厚生労働省もこの点は認識しており、令和6年度の補正予算で「地域における特定行為実施体制推進事業」として9,800万円を計上した。訪問看護ステーション等の看護師の受講を推進するため、制度の周知と受講体制の整備を支援する内容である。医療機関である指定研修機関等には2分の1、関係団体には定額の補助が出る。

ただ、受講体制を整備しても、訪問を回す人が増えるわけではない。

修了しても、実施に至らない

二つ目の壁は、修了した後にある。

全国訪問看護事業協会は2025年2月に「特定行為研修修了者の実践における課題及び解決に関する調査結果報告書」を公表し、2026年3月には「特定行為研修修了後から実施に至るまでのガイド」を掲載した。

修了後から実施に至るまでのガイドが必要だということは、修了しても実施していない人がいるということである。

なぜ実施に至らないのか。特定行為は、医師が交付した手順書に基づいて行う。手順書には、対象となる患者の病状の範囲、診療の補助の内容、医師への連絡体制、実施後の報告方法などが記載される。つまり、医師が手順書を書かなければ、研修を修了した看護師も特定行為を実施できない。

日本医師会は手順書の事例集を公開し、「訪問看護 de 特定行為」という医師向けのリーフレットも作成している。制度の側は、医師の理解を広げようとしている。

それでも進まない。2026年2月の看護師特定行為研修ワーキンググループでは、手順書を示す医師側の理解が必ずしも十分に進んでいない点が課題として挙げられたと報じられている。

当メディアで訪問看護指示書と医師会の関係を論じた際、訪問看護は制度上、医師の指示に依存していると書いた。特定行為は、その依存がもう一段深い。指示書がなければ訪問できない。手順書がなければ特定行為はできない。どちらも、書くかどうかを決めるのは医師である。

加算はある。しかし算定できない

三つ目が、報酬の壁である。

ここは正確に書く必要がある。特定行為研修修了者による管理を評価する加算は、すでに存在する。専門管理加算である。

介護報酬では月250単位。特定行為研修を修了した看護師が計画的な管理を行った場合に算定する。医療保険にも同様の加算が令和4年度改定で設けられている。

問題は算定の条件だ。専門管理加算のロは、特定行為に係る手順書の交付対象となった利用者に限って算定できる。

つまり、加算の可否も医師が手順書を出すかどうかで決まる。研修を修了した看護師を雇っていても、担当する利用者に手順書が交付されていなければ、その看護師の専門性は報酬に反映されない。

2026年2月のワーキンググループで、特定行為研修修了看護師による訪問看護に特別な点数や療養費が設けられていない点が課題として挙げられたと報じられたのは、この構造を指していると読める。加算は制度上存在するが、事業所の努力だけでは算定に到達できない。

事業所の側から見れば、こうなる。人を抜いて研修に出す。費用と時間をかける。修了しても、連携先の医師が手順書を書かなければ実施できず、加算も取れない。投資の回収が、自分たちの外側にある要因で決まる。

この構造で受講が進まないのは、経営判断として合理的である。

制度は動いている

一方で、制度側の見直しも進んでいる。

2026年2月のワーキンググループでは、研修の見直しの方向が固まった。症例経験数について、一律の数を求めるのではなく、指導者が研修受講者の技量を見て設定する方式にする。受講のハードルを下げる方向である。

医療情報提供内容検討会では、特定行為研修を修了した看護師に業務移管している旨を、医療機関が広告できるようにする方針が示された。修了者を抱えることが、対外的な価値として認められる方向だ。

訪問看護ステーションの場合、機能強化型訪問看護管理療養費1の要件には、専門の研修を受けた看護師の配置が2024年改定から必須となっている。当メディアで機能強化型4の新設を扱った際に触れたとおり、届出要件と人材育成は連動している。

つまり、研修に出すことの意味は、加算の250単位だけではない。届出要件、広告、そして訪問できる範囲そのものが変わる。

2027年度改定で問われること

ここで、2027年度介護報酬改定の議論につながる。

当メディアで6月の介護給付費分科会の資料を分析した際、厚生労働省が「医療処置を含めた24時間の看護サービスの提供ではなく、リハビリテーションの提供が主体の事業所も一定数あると推察される」と記したことを書いた。論点は、質の高い訪問看護を提供する事業所をどう評価するかである。

質の高さを測る物差しの一つが、どこまでの医療処置を担えるかであることは間違いない。特定行為研修の修了者を抱え、手順書に基づいて気管カニューレや胃ろうカテーテルの交換、脱水時の輸液などを実施できる事業所と、そうでない事業所では、担える利用者の範囲が違う。

当メディアでイギリスの地域看護師が15年で43%減ったことを扱った際、イギリスには等級という物差しがあったから危機を検知できたが、日本の訪問看護には訪問看護師としての資格がないと書いた。特定行為研修は、日本の訪問看護が持ちうる数少ない物差しの一つである。

その物差しが、修了者11,840人、目標比12%という状態にある。しかも訪問看護での実施は、その一部にとどまる。

事業所として何を判断するか

受講を検討する事業所が、判断すべき点を整理する。

第一に、連携している医師が手順書を書く意思があるかどうか。研修に出す前に確認すべきことである。書く医師がいなければ、修了しても実施できない。日本医師会の事例集やリーフレットは、その相談を切り出す材料になる。

第二に、担当している利用者のなかに、特定行為の対象となりうる人がどれだけいるか。気管カニューレ、胃ろう、褥瘡の処置、脱水。当メディアで分科会資料を分析した際、訪問看護における医療処置の実施件数が年々増え、褥瘡の予防、緊急時の対応、創傷部の処置が顕著に伸びていることを紹介した。対象者が一定数いるなら、投資の意味は変わる。

第三に、一人を抜いても回るかどうか。5.8人の事業所では、これが最大の制約になる。逆に言えば、規模を確保することが研修に出す前提になる。当メディアで離職を減らす方法を論じた際、看護職員5人以上の事業所は5人未満より離職率が低いという調査を紹介した。規模の確保は、定着だけでなく育成の条件でもある。

12%という数字の読み方

11,840人という数字は、10年で259人から伸びた結果である。増えていないわけではない。

ただ、目標の12%にとどまり、しかも在宅領域での実施が進まないという状態は、制度の設計と現場の条件が噛み合っていないことを示している。噛み合っていない場所は三つ、規模、手順書、そして加算の条件である。

このうち規模は事業所の問題だが、手順書と加算の条件は制度の問題だ。2027年度改定で質の評価が論点になるなら、特定行為研修修了者をどう評価するかは避けて通れない。加算を新設するより、いま存在する加算が算定できない理由を解くほうが先である。

研修を修了した看護師が、修了しただけで終わっている。その状態を放置したまま、訪問看護の質を測ることはできない。

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