GemMedの報道によれば、2024年末時点で全就業看護師の6.7%(常勤換算では6.4%)が訪問看護ステーションに勤務していることが、厚生労働省の調査で明らかになりました。
数字としては小さく見えるかもしれません。しかし10年前と比較すれば大幅な拡大であり、訪問看護が「医療の主流」として確立されつつある実態を示しています。一方で、都道府県別の看護師分布には明確な格差があり、地域医療体制の維持に向けた構造的課題も浮き彫りになっています。
HokanPress編集部では、本データの意味を読み解き、訪問看護業界の現状と今後の方向性について整理しました。経営者・管理者の皆様の経営判断、看護師個人のキャリア選択の参考にしていただければ幸いです。
まず、訪問看護師の規模を確認します。
厚生労働省の2024年末時点のデータによれば、訪問看護ステーションに勤務する看護師の割合は以下の通りです。
これは、看護師100人のうち6〜7人が訪問看護に従事している計算です。決して大きな割合ではありませんが、業界として安定的な拡大基調にあります。
訪問看護師の数は、過去10年で大きく拡大しました。
拡大の背景:
これにより、看護学校卒業後の進路として、訪問看護を初めから視野に入れる学生も増えてきました。
訪問看護ステーション数も、看護師数と並行して拡大してきました。
一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によれば、2024年4月時点での訪問看護ステーション届出数は17,808件。さらに2026年現在は約15,700か所を超え過去最多を更新しているとされています。
ただし、新規開業と廃止が並行して発生しており、業界の新陳代謝が活発な状態であることも示されています。
訪問看護師の拡大という全体傾向の裏で、都道府県別の格差は依然として大きな状態です。
GemMedの報道によれば、都道府県別の人口10万人対就業看護師数は以下のような分布となっています。
最も多い県:
最も少ない県:
最多の高知県と最少の埼玉県では、人口10万人あたり約931人の差があります。これは2倍以上の格差です。
この格差は、いくつかの重要な意味を持っています。
意味1: 地方の方が看護師密度が高い
意外にも、高知・鹿児島・長崎などの地方県のほうが、看護師密度が高い結果となっています。これは医師不足の地域で看護師が医療を支える役割が大きいこと、医療ニーズの高い高齢者比率が高いことなどが背景にあると考えられます。
意味2: 都市部の絶対数は多いが密度は低い
埼玉・神奈川・千葉などの首都圏は、看護師の絶対数は多いですが、人口に対する密度は低い状態です。人口集中地域での看護師確保の難しさを示しています。
意味3: 増加数の傾向
埼玉県は2年前から+82.8人と、増加数では最大級です。一方、神奈川県は+23.5人と増加が緩やかです。同じ首都圏でも、看護師供給の動向には差があります。
この看護師分布の格差は、訪問看護にも直接影響します。
地方への影響:
都市部への影響:
地域特性に応じた経営戦略が、訪問看護ステーションには求められる構造です。
訪問看護師の数が拡大している背景を、複数の視点から整理します。
国は地域包括ケアシステムの推進を進めており、訪問看護はその中核として位置づけられています。
政策の方向性:
これらの政策が、訪問看護の拡大を後押ししています。
日本の高齢化は世界最高水準であり、訪問看護の需要は構造的に拡大しています。
高齢化の影響:
これらの需要拡大が、訪問看護師の必要性を高めています。
看護師個人にとっても、訪問看護はキャリアの選択肢として確立されてきました。
訪問看護の魅力:
これらに魅力を感じる看護師が、訪問看護を選ぶケースが増えています。
訪問看護ステーションの運営主体も多様化してきました。
主な運営主体:
特に営利法人の参入が、業界の拡大を加速させました。
訪問看護師が全看護師の6.7%にまで拡大したことは確かな進歩ですが、地域医療の要として十分かについては、議論が必要な水準です。
GemMedの報道では、「地域包括ケアシステムの要」として十分かどうか疑問が呈されています。
需要規模の参考:
これらの需要拡大ペースに対して、訪問看護師6.7%という水準は、地域包括ケアシステムを支えるには不十分な可能性があります。
訪問看護師の割合の国際比較については、各国の医療制度が異なるため単純比較は難しいですが、参考情報として整理しておきます。
参考事項:
日本独自の制度設計の中で、訪問看護師の役割と規模をどう拡大していくかが課題となります。
業界として、訪問看護師の比率をどこまで高めるべきかは、明確な目標が定まっていない状態です。
考えられる目標水準:
数値目標だけでなく、質的な目標も含めた業界ビジョンが求められる時期にあります。
人材格差を縮小するための取り組みも、業界全体の重要課題です。
国は格差縮小に向けた複数の政策を進めています。
主な政策:
これらが組み合わさることで、地方の訪問看護インフラの維持・強化が期待されます。
地方の訪問看護ステーションには、独特の課題があります。
地方特有の課題:
これらを克服するための事業者支援と、看護師個人の流入促進の両面の取り組みが必要です。
一方、都市部の訪問看護ステーションにも別の課題があります。
都市部特有の課題:
質の高い訪問看護を提供する事業者が、適正に評価される市場環境の整備が課題となります。
このデータから、訪問看護経営者として読み取るべきメッセージを整理します。
まず、訪問看護業界全体が拡大基調にあることを確認できます。
拡大基調の意味:
経営者として、業界全体への期待感を持つことは合理的です。
ただし、地域特性により事情は大きく異なります。
地域特性の把握:
「業界全体が拡大しているから自社も成長できる」という単純な発想は、地域の現実を見落とすリスクがあります。
看護師の地域別分布を踏まえた人材確保戦略が、経営の鍵となります。
戦略の要素:
人材確保は経営の生命線です。データを踏まえた戦略立案が求められます。
業界全体の質的向上が進む中で、適正運営の重要性が高まっています。
適正運営の要素:
2025年に表面化した不正請求問題を経て、適正運営が業界の前提条件となっています。
短期的な数字に一喜一憂せず、中長期的な視点を保つことが重要です。
中長期視点の要素:
業界の拡大という流れの中で、自ステーションの位置づけを明確化することが、長期的な経営の基盤となります。
訪問看護を選ぶ、または現在訪問看護で働く看護師個人にも、このデータからのメッセージがあります。
訪問看護師が全看護師の6.7%を占めるまで拡大したことは、訪問看護がキャリアの一つとして確立されたことを示します。
キャリアの選択肢:
選択肢の多様性が、看護師のキャリアを豊かにします。
都道府県別の看護師分布の格差は、看護師個人にとって地域選択の意味を持ちます。
地域選択の視点:
「どこで看護師を続けるか」は、看護師のキャリア設計の重要な要素となります。
業界の拡大に伴い、看護師個人の専門性の追求がより重要になります。
専門性の方向性:
専門性が高い看護師ほど、キャリアの選択肢が広がり、給与水準も向上する構造です。
2026年改定で処遇改善の動きが進む中、自身の給与・処遇への意識も重要です。
意識すべき点:
「処遇は与えられるもの」ではなく、「自分で選び取るもの」という意識が、キャリアを切り開きます。
最後に、本データを踏まえた業界の今後の方向性を整理します。
短期的には、2026年改定の影響が業界全体に浸透していく時期となります。
予想される動き:
2027年の通常改定、2030年改定を経て、業界の質的変化が進みます。
予想される変化:
長期的には、訪問看護が日本の医療提供体制の中核を担う存在となります。
長期的な姿:
2026年は、こうした長期的変化の重要な節目です。
2024年末時点で全就業看護師の6.7%が訪問看護ステーションに勤務するまで、訪問看護業界は拡大してきました。これは10年前と比較すれば大幅な進歩であり、地域包括ケアシステムの中核として訪問看護が確立されつつあることを示しています。
ただし、都道府県別の看護師分布には依然として大きな格差があり、地方の人材確保、都市部の競争激化、不適切運営事業者の存在など、業界の構造的課題は残されています。
訪問看護経営者として、業界全体の拡大基調を踏まえつつ、地域特性に応じた経営戦略、人材確保、適正運営、中長期視点を持つことが、自ステーションの未来を支える基盤となります。看護師個人としても、訪問看護がキャリアの選択肢として確立されたことを踏まえ、自身の専門性追求、地域選択、給与・処遇への意識を高めていくことが、看護師としての充実したキャリア形成につながります。
2026年は、訪問看護業界にとって大きな転換点です。複数の制度変更が動き始める中で、業界全体としての質的向上と、地域医療への貢献を進めていく重要な時期となります。
HokanPress編集部では、訪問看護業界の最新動向について、引き続きデータと分析を発信してまいります。