2026年6月施行の診療報酬改定では、訪問看護に関する多くの新制度・新加算が動き始めました。その中で、現場スタッフの日常業務に直接影響する重要な変更が「訪問看護記録書の整備義務化」です。
訪問開始・終了時刻の明記、客観的事実に基づく記録、算定根拠の明確化——これらが事業者の「適正な手続きの確保」として法的に義務付けられました。これまで「努力目標」だった項目が、今後は実地指導での確認対象となります。
経営者・管理者として、また現場で訪問看護を提供する看護師として、新ルールへの対応は避けて通れません。HokanPress編集部では、義務化の内容と実務対応について整理しました。施行から1週間が経過した今、改めて自ステーションの記録運用を点検する機会としていただければ幸いです。
まず、今回義務化された内容を確認します。
2026年6月改定では、訪問看護事業者の「適正な手続きの確保」が義務付けられました。これは、2025年に表面化した一連の不正請求問題への構造的対応として位置づけられています。
義務化の主な内容:
このうち、現場の日常業務に最も直接的に影響するのが、訪問看護記録書の整備です。
訪問看護記録書は、複数の役割を持つ重要な文書です。
訪問記録の役割:
これらすべてに影響するため、記録の質の標準化が業界全体の喫緊の課題となっていました。
訪問看護記録書の整備義務は、すべての訪問看護ステーションが対象です。
対象範囲:
例外はありません。すべての訪問看護師が、新ルールを理解し実践する必要があります。
ここから、義務化された具体的な記録項目を整理します。
最も重要な変更が、訪問開始・終了時刻の明記義務化です。
記録すべき時刻:
これまで「○○時頃」「約○分」といった曖昧な記載が容認されていたケースもありましたが、今後は分単位での明確な記載が求められます。
訪問内容についても、より具体的な記載が求められます。
記載すべき内容:
「異常なし」「変化なし」のような簡素な記載では、後で算定根拠としての証明力が不十分となります。
算定する加算について、その根拠を記録に明示する必要があります。
加算別の記録要件:
算定する加算ごとに、なぜ算定可能なのかが記録から読み取れる必要があります。
多職種連携の記録も、これまで以上に重要となります。
連携記録の要素:
これらの記録が、サービスの質の証明にもなります。
利用者・ご家族の意向確認の記録も求められます。
意向記録の要素:
「利用者中心の看護」の証拠として、意向確認の記録が重要となります。
訪問記録の厳格化が進められた背景を整理します。
2025年に表面化した一連の不正請求問題で、記録の不備が共通の課題として指摘されました。
問題の構造:
これらが、不正請求の温床となっていました。
2026年6月改定では、複数名訪問看護加算等が同一日・同一建物内の人数別に階段的評価となりました。
新評価の影響:
新区分での正確な算定のため、記録の精度向上が前提となります。
厚生労働省は、訪問看護への実地指導を強化する方針を示しています。
実地指導強化の動向:
実地指導での確認対象として、訪問記録の質が最重要項目の一つとなっています。
訪問記録は、多職種連携の基盤情報でもあります。
連携での活用:
質の高い記録が、質の高い連携を生み、結果として利用者ケアの質向上につながります。
訪問記録のICT化が進む中、記録の標準化が業界全体の課題となってきました。
ICT化の動向:
標準化された記録があってこそ、ICTの効果が最大化されます。
新しい記録要件への対応を、経営者・管理者の視点で整理します。
まず、自ステーションの訪問記録様式を見直します。
見直しのポイント:
紙の記録様式を使用している場合、テンプレートの更新が必要です。電子記録システムの場合、設定変更で対応可能なケースが多いです。
新ルールについて、スタッフへの研修を実施します。
研修内容:
研修は一度では不十分です。継続的な振り返りと指導が必要となります。
月次でランダムサンプリングによる記録チェックを実施します。
チェック方法:
これにより、記録の質の継続的な向上が実現します。
訪問看護記録システムの活用は、記録の質向上に大きく寄与します。
活用ポイント:
ICT投資には費用がかかりますが、記録品質と業務効率の両面で回収可能な投資となります。
記録の保存・管理体制も、義務化に対応した整備が必要です。
整備項目:
電子データでの保存が増えていますが、セキュリティ管理がより重要となります。
訪問先で記録を作成する看護師にとっての、実務対応を整理します。
訪問開始・終了時刻の記録を、習慣化することが基本です。
具体的な方法:
「あとで思い出して記録」では、正確性が失われます。リアルタイムでの記録が原則となります。
主観的な解釈ではなく、客観的事実の記載を心がけます。
書き方の例:
❌ 主観的記載: 「Aさんは元気そうだった」 「ご家族は不安そう」 「状態は安定」
⭕ 客観的記載: 「Aさんは笑顔で挨拶。バイタル: 体温36.5度、血圧130/80、脈拍72。」 「ご家族から『夜中に何度か起きる』との発言あり。」 「前回訪問時と比較して、バイタル・症状に有意な変化なし。」
客観的記載が、記録の証拠能力を高めます。
実施した看護内容を、具体的に記載します。
記載のポイント:
「処置実施」だけでなく、「○○の処置を△△の方法で実施。利用者から痛みの訴えなし。」のような記載が望ましいです。
算定する加算がある場合、その根拠を記録に明示します。
記載例:
緊急訪問看護加算の場合: 「○月○日○時に利用者ご家族から連絡。発熱38.5度、呼吸困難の訴えあり。主治医に連絡し、緊急訪問を実施。」
複数名訪問看護加算の場合: 「医療処置(○○)の実施に複数名訪問が必要なため、看護師2名で訪問。一方が処置、他方が安全確保を担当。」
加算ごとに、なぜ算定可能なのかが明確になる記載が求められます。
記録には個人情報が含まれるため、保護の徹底が必要です。
保護のポイント:
訪問先での記録作業中、第三者から画面が見えないよう注意することも重要です。
新しい記録要件について、よくある質問と回答を整理します。
A: 分単位での記録が原則です。「○○時頃」のような曖昧な表現は避けてください。スマホ・タブレットでの正確な時刻記録が推奨されます。
A: 短時間でも、訪問開始・終了時刻を正確に記録します。「短時間で終わった」理由(利用者の状態が安定していた等)も併記すると望ましいです。
ただし、精神科訪問看護では「20分ルール」(訪問時間20分以上)が義務化されているため、20分未満の訪問は算定対象外となります。
A: 訪問先で時刻と主要事項をメモし、ステーション到着後に詳細を記入することは可能です。ただし、その日のうちに記録を完成させることが原則です。
A: 過去の記録について、後日修正することは原則として認められません。事実に基づく追記が必要な場合は、追記日時と理由を明記して追記します。
不適切な記録があった場合、隠蔽せずに正直に対応することが、長期的なリスク管理として重要です。
A: 電子記録への移行が推奨されますが、紙記録も認められます。重要なのは、どちらの形式でも法定保存期間(原則2年)の保存と、実地指導時の即時提示ができることです。
A: 連携病院・主治医への情報提供を行った場合は、その内容を記録することが望ましいです。算定要件として情報提供が必要な加算がある場合は必須となります。
A: 訪問の主担当者が記録を書きます。同行者は、補足情報や気づきを別途記録に追記することができます。
新人教育中の同行訪問では、新人と指導者の両方が記録を書く練習として活用することも有効です。
新しい記録要件に違反した場合のリスクを整理しておきます。
記録が不適切と判断された場合、過去の算定分の返還が求められる可能性があります。
返還リスクの規模:
特に、新区分での算定根拠が記録に明示されていない場合、返還リスクが高まります。
実地指導で記録の不備が指摘された場合、改善計画の提出が求められます。
指摘の影響:
実地指導での指摘は、組織全体の業務負担増につながります。
重大な不備が継続的に発生する場合、最悪のケースでは指定取消の対象となります。
指定取消の影響:
これは極端なケースですが、絶対にあってはならない事態です。
訪問記録は法的文書です。記録の不備が、医療事故等の発生時に法的責任の追及につながる可能性があります。
法的リスク:
記録は「自分を守る」ためでもあります。
最終的に、記録の不備は事業者の信頼を喪失させます。
信頼喪失の影響:
信頼の回復には、失われた時間以上の時間がかかります。
訪問看護記録書の整備義務化を、経営者としてどう捉えるべきか、視点を整理します。
記録の質向上は、短期的にはコスト増ですが、長期的には投資です。
投資の効果:
「面倒な義務」ではなく、「経営を守る投資」として捉える視点が重要です。
記録の質向上は、現場スタッフの理解と協力なくして実現しません。
巻き込みのポイント:
経営者だけで決めて押し付けるのではなく、スタッフと一緒に作り上げる姿勢が、定着の鍵となります。
ICT投資は、記録の質向上の強力なツールです。
戦略的活用:
ICT投資は月数万円〜十数万円のコストですが、業務効率化と記録品質の両面で回収可能です。
記録の質向上は、一度の取り組みで完成するものではありません。
継続的改善のサイクル:
PDCAサイクルを回し続けることが、質の向上を支えます。
自ステーションの記録の質向上は、業界全体の信頼回復にも貢献します。
業界全体への影響:
個別ステーションの取り組みが、業界全体を変えていく原動力となります。
2026年6月施行の診療報酬改定で義務化された訪問看護記録書の整備は、現場の日常業務に直接影響する重要な変更です。訪問開始・終了時刻の明記、客観的事実に基づく記録、算定根拠の明確化——これらすべてが、適正運営の前提条件となります。
経営者・管理者として、記録様式の見直し、スタッフへの研修、月次サンプリングチェック、ICTシステムの活用、保存・管理体制の整備を、着実に進める必要があります。現場看護師として、時刻記録の習慣化、客観的事実の記載、看護内容の具体的記載、加算根拠の明示、個人情報保護を、日常業務に組み込んでいただきたいと考えます。
訪問看護記録は、看護の質を証明する文書であり、算定の根拠資料であり、法的責任の証拠であり、多職種連携の基盤情報です。記録の質向上は、コストではなく投資として捉え、スタッフを巻き込み、ICTを戦略的に活用し、継続的な改善を進めることが、自ステーションの未来を支える基盤となります。
2026年改定は、訪問看護業界の質的変化の重要な節目です。記録の質向上を通じて、業界全体の信頼回復と持続可能性向上に貢献していきたいと考えます。
HokanPress編集部では、訪問看護経営・実務に役立つ最新情報を、引き続き発信してまいります。