マイナビが運営する「メディカルサポネット」が、2026年6月1日に「看護師白書2026年版」を公表しました。マイナビ看護師の登録会員2,564人を対象とした調査結果で、看護師の労働実態と本音が浮き彫りになっています。
最も注目される数字が、66.8%の看護師が「仕事に見合う給与ではない」と回答したこと。さらに、仕事に満足している看護師はわずか37.0%、適正な給与水準として「今より30%以上」を求める看護師が最多という結果です。
これは病院看護師中心の調査ですが、訪問看護師にも共通する構造的問題を示しています。施行されたばかりの2026年6月改定で処遇改善加算が訪問看護に新設されましたが、現場の本音はそれを上回る給与改善を求めている実態が明らかになりました。
HokanPress編集部では、調査結果のポイントと、訪問看護経営者として読み取るべきメッセージを整理します。
まず、今回の調査の概要を確認します。
メディカルサポネットの発表によれば、本調査の基本情報は以下の通りです。
マイナビ看護師は国内大手の看護師人材紹介サービスです。本調査の回答者は、転職志向のある看護師を含む幅広い層が対象となっており、看護師全体の傾向を一定程度反映するデータと位置づけられます。
2026年6月1日の公表は、診療報酬改定施行日と重なります。これは偶然ではなく、改定施行に合わせて業界の関心が高まる時期を狙った公表と推察されます。
業界として、改定による処遇改善が現場の期待にどこまで応えるかが問われる中で、現場の本音を示すデータとして注目されています。
調査結果の中で最も衝撃的な数字が、給与に関する回答です。
マイナビの調査によれば、看護師の66.8%が「仕事に見合う給与ではない」と回答しました。これは3分の2を超える看護師が、自身の給与に不満を持っている状態を示します。
この数字の重みを別の角度から見ると、以下のような構造です。
業界として、これだけの規模の不満が継続している状態は、人材確保・定着において深刻な構造的課題となります。
さらに注目すべきは、看護師が考える「適正な給与水準」です。
マイナビの調査によれば、看護師が考える適正水準として「今より30%以上」が最多回答とされています。
具体例で考えると:
これは、業界全体の給与水準を構造的に引き上げる必要性を示す数字です。
訪問看護師の平均年収は約480万円〜520万円程度と言われています(地域・職位により大きく異なる)。看護師が考える適正水準まで引き上げるには、年収換算で100万円以上の引き上げが必要となる計算です。
しかし、訪問看護への介護職員等処遇改善加算は、加算率1.8%。利用者数100名規模のステーションで月数万円〜10万円程度の加算原資にとどまります。これを全スタッフに配分しても、看護師が求める水準には届きません。
業界として、根本的な処遇改善の道筋が問われる構造です。
給与に続き、もう一つの重要な数字が仕事満足度です。
マイナビの調査によれば、仕事に満足している看護師は37.0%です。これは半数以下が満足している状態を示します。
別の見方をすれば、約63%の看護師が「仕事に満足していない」と回答していることになります。
仕事への満足度が低いことの意味:
これは個人の問題ではなく、業界全体の構造的課題として捉えるべき数字です。
調査では、世代別の傾向も明らかになっています。
仕事に満足している看護師の世代別構成:
意外にも、20代の若手看護師が最も満足度が高い結果となっています。これは、20代がまだキャリア初期で「成長実感」を得やすい時期である一方、30代以上になると現実とのギャップを感じやすい構造が背景にあると推察されます。
訪問看護師の年齢構成は、病院看護師と異なる傾向があります。30代〜50代の経験豊富な看護師が中心となるケースが多く、20代の比率は相対的に低い傾向にあります。
このデータを踏まえれば、訪問看護師は満足度の低い世代を主要構成員としている可能性があります。経営者として、この構造への対応が重要な経営課題となります。
なぜこれほどの給与不満が継続しているのか、構造的背景を整理します。
日本看護協会の発表によれば、看護師の基本給は2012年から2024年までの12年間で、わずか約6,000円の増加にとどまっています。
これは月平均500円の増加で、物価上昇を考えれば実質賃金は下落していると言える水準です。
物価上昇との対比:
この構造が、看護師の給与不満の根本にあります。
訪問看護師にとって特に課題となるのが、介護職員との給与差の縮小です。
これまでの構造:
2026年改定後の構造:
介護職員への月1万9,000円の賃上げが実現すれば、看護師との給与差が縮まります。これは看護師のモチベーション低下、訪問看護から介護分野への流出、看護師としての専門性への評価感の低下につながる可能性があります。
給与不満の背景には、業務負担と給与の見合いの問題もあります。
看護師の業務負担:
これらの負担に対して、給与水準が見合っていないという認識が、66.8%という不満率につながっています。
マイナビ調査の結果は、訪問看護経営者にとって複数の警鐘を含んでいます。
看護師の3分の2が現在の給与に不満を持つ状況は、転職市場の活発化を意味します。
予想される市場動向:
訪問看護ステーションとして、地域の同業者・病院との給与比較で見劣りすると、採用が難しくなる構造です。
仕事満足度37.0%という低水準は、定着率の構造的なリスクを示します。
定着リスクの構造:
訪問看護ステーションでは、ベテラン看護師1名の離職が機能強化型の要件を脅かす場合もあります。定着率の維持は経営の生命線です。
看護師が「今より30%以上」の給与アップを求める現実は、業界全体への期待値の高まりを示します。
期待値が高まる要因:
訪問看護経営者として、この期待値に応えられない場合、看護師の失望と離職につながる構造です。
訪問看護への新設加算1.8%は、看護師が求める「30%以上の引き上げ」とは大きな乖離があります。
ギャップの規模:
加算だけで看護師の期待に応えるのは構造的に困難です。経営者として、加算以外の処遇改善策も含めた総合的な戦略が必要となります。
マイナビ調査の結果を踏まえて、訪問看護経営者が今取るべき対応を整理します。
まず、自ステーションの給与水準を、客観的に評価します。
評価の視点:
「うちは適正な給与」という主観ではなく、データに基づく客観評価が出発点となります。
加算だけに頼らず、複数の処遇改善策を組み合わせた総合戦略を策定します。
戦略の要素:
短期的な加算配分だけでなく、中長期的な処遇改善計画が必要です。
看護師の本音を把握するため、継続的な対話の仕組みを作ります。
対話の仕組み:
調査データだけでなく、自ステーションの看護師の本音を継続的に把握することが、対応の精度を高めます。
給与水準で大手に勝てない場合、給与以外の魅力を強化する戦略も有効です。
給与以外の魅力:
「給与は標準的だが、それ以外で選ばれる職場」という戦略が、中小ステーションの生存戦略となります。
個別ステーションでの取り組みと並行して、業界全体への発信も重要です。
発信のチャネル:
「訪問看護師の処遇改善」を業界課題として可視化し、社会的な評価向上を進めることが、長期的な人材確保につながります。
マイナビ調査が示す現状を踏まえて、業界の長期的な方向性を考察します。
短期的には、複数の制度変更が現場に浸透していく時期となります。
予想される動き:
ただし、看護師が求める「30%以上の引き上げ」までには相当の隔たりがあり、業界としての不満は当面継続する可能性が高い状況です。
2027年の通常改定では、訪問看護を含む全分野の処遇改善が本格議論される見通しです。
予想される論点:
業界として、この機会に処遇改善を継続的に進められるかが、人材確保の鍵となります。
長期的には、業界の構造そのものの変化が予想されます。
予想される変化:
「給与」だけでなく、「専門職としての地位」「キャリアの選択肢」「働きがい」も含めた総合的な処遇改善が、業界の魅力を支える構造となります。
最後に、マイナビ調査を経営者としてどう受け止めるべきか、視点を整理します。
66.8%という数字を、経営者として直視することから始まります。
「うちは違う」と思いたい気持ちは理解できますが、業界全体の傾向は自ステーションにも当てはまる可能性が高い現実です。データに基づく冷静な経営判断が求められます。
データを補完するのが、自ステーションの看護師の声です。
定期的な対話を通じて、看護師の本音を把握することが、現場に根ざした処遇改善につながります。
処遇改善は短期的にはコスト増ですが、長期的には人材確保・定着への投資です。
短期の数字に縛られず、3年後・5年後の経営を見据えた処遇改善が、結果として経営の安定化につながります。
個別ステーションでの取り組みには限界があります。業界団体、同業者、行政との連携で、業界全体の処遇改善を進める視点が重要です。
最終的には、経営者自身が「看護師の処遇改善を経営の最優先課題とする」という覚悟を持てるかが問われます。
「制度が整えば」「いつか」ではなく、「今、自分のステーションで」何ができるかを問い続ける姿勢が、業界の未来を作ります。
マイナビ「看護師白書2026年版」が示す現実は、訪問看護経営者にとって重い警鐘です。看護師の66.8%が「給与が仕事に見合わない」と回答し、適正水準として「今より30%以上」を求める現実は、業界全体の構造的課題を浮き彫りにしています。
2026年6月施行の処遇改善加算1.8%は、看護師の期待に応えるには不十分な水準です。経営者として、加算だけに頼らず、自ステーションの給与水準の客観評価、総合的な処遇改善戦略の策定、看護師との対話継続、給与以外の魅力強化、業界全体への発信を、着実に進める必要があります。
「制度が整えば」と待つのではなく、「今、自分のステーションで」何ができるかを問い続ける姿勢が、看護師から選ばれる職場を作り、業界の未来を支える基盤となります。
訪問看護師の処遇改善は、業界全体の社会的地位向上、サービスの質向上、地域医療の維持という、より大きな価値につながります。経営者として、この機会を業界変革への第一歩として活用していきたいと考えます。
HokanPress編集部では、訪問看護経営に役立つ最新のデータと知見を、引き続き発信してまいります。