9月に入っても暑い日が続いています。訪問先で汗を拭きながら、感染対策は冬の話だと思っていました。
でも今年は違いました。インフルエンザが8月のうちに流行入りしています。
全国の医療機関から報告される患者数を定点当たりで見た数字が、2026年の第34週、8月17日から23日の週に1.11となりました。これが1.00を超えると、流行が始まったと判断されます。
感染症法が施行された1999年以降で、2009年に次いで2番目に早い流行入りです。去年は第39週、9月22日から28日の週でした。今年は5週間ほど早いことになります。東京都は8月27日に流行開始を発表しました。
訪問看護にとって、この5週間は小さくありません。多くの事業所では、感染対策の話し合いも職員のワクチン接種も、10月や11月に予定しているからです。
この時期の流行で私が心配なのは、症状が見過ごされることです。
厚生労働省の説明では、インフルエンザは38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身のだるさが比較的急に現れるのが特徴です。でも、まだ暑いこの時期にだるさや食欲低下があると、夏バテや熱中症だと考えてしまいます。
高齢の利用者さんの場合、そもそも高い熱が出ないこともあります。いつもより元気がない。食事が進まない。ぼんやりしている。当メディアで糖尿病の在宅管理を扱ったときにも書きましたが、高齢者の体調変化は教科書どおりに出ないことが多いです。
だから、いつもと違うかどうかを判断できる人が必要になります。週に1回でも2回でも、その人を継続して見ている訪問看護師は、その判断ができる数少ない立場にいます。
先週の訪問でどうだったかを覚えているか、記録に書いてあるか。それが比べる土台になります。
もう一つ、はっきり書いておきたいことがあります。
1日に5軒回るということは、5つの家に入るということです。私たちは、ウイルスを運んでしまう可能性のある立場にいます。
病院なら、感染している患者さんは病室にいて、こちらが防護具をつけて入ります。在宅は逆です。こちらが家から家へ移動していきます。しかも訪問先には、高齢で持病のある方が待っています。
これは怖がらせたいのではなく、対策の優先順位を決めるうえで大事な前提です。自分が感染しないことと同じくらい、自分が持ち込まないことに重みがあります。
難しいことは書きません。この時期に始められることを、順番に挙げます。
手指衛生のタイミングを決め直す
手を洗う、または消毒するタイミングは、利用者さんに触れる前と後、処置の前後、そして家を出るときです。頭では分かっていても、荷物を持ちながら玄関を出ると飛びます。
私は、玄関を出て自分の車に触る前に必ず消毒する、と決めました。車のドアノブは、次の家まで持っていく場所だからです。
訪問の順番を見直す
発熱している方、感染が疑われる方は、その日の最後に回す。これは基本ですが、スケジュールが埋まっている日ほど守れません。
朝のうちに、今日どこかで順番を入れ替える可能性があるかを考えておくと、実際に連絡が入ったときに動けます。事業所で「順番を変えるときは誰に相談するか」を決めておくと、一人で悩まずに済みます。
車の中を分ける
自分の車が事務所と訪問先の間にある、と考えてみてください。
使った物と使っていない物を同じ場所に置いていると、境目がなくなります。私は助手席を清潔なもの、後部座席を使用後のもの、と決めています。完璧ではありませんが、決めておくと迷いません。
持ち込む物を減らす
家に入れる物が少ないほど、管理は楽になります。必要な物だけを玄関で出して、バッグごと持ち込まない。この一手間で、バッグの底が訪問先の床に触れる回数が減ります。
ワクチンの時期を前倒しで考える
一般に、インフルエンザワクチンは効果が出るまでに2週間ほどかかると言われています。流行がすでに始まっている以上、例年どおり11月に打つのでは間に合わない時期に入ります。
職員の接種をいつ始めるか、費用を事業所が負担するかは、事業所ごとの判断です。ただ、今年は決めるタイミングが早くなります。管理者に確認してみてください。利用者さんの接種についても、主治医やご家族と話す時期が前倒しになります。
利用者さんの家族は、感染対策の相手ではなく、一緒にやる人です。
伝えるときに気をつけているのは、禁止の形にしないことです。面会に来ないでください、と言うと、家族は関われなくなります。そうではなく、こういうときは知らせてほしい、という形にします。
ご家族の誰かが熱を出したら教えてください。デイサービスで休んでいる人がいるみたいだと聞いたら教えてください。そうやって情報が入ってくる関係を作っておくと、訪問する前に分かります。
当メディアで残薬の確認を扱ったときにも書きましたが、家族から情報が入るかどうかは、普段の関わり方で決まります。
これがいちばん難しいところです。
訪問看護は人数が少ない職場です。当メディアの記事で見た数字では、1事業所あたりの看護職員は平均5.8人。一人休めば、その日の訪問を誰かが引き受けることになります。だから、多少の不調なら出てしまう。私もそうでした。
でも、訪問看護師が感染した状態で回るのは、病棟で働くより影響が大きいです。その日に入った家すべてが対象になります。
学校には出席停止の基準がありますが、働く人にはそういう一律の決まりがありません。だからこそ、事業所で決めておく必要があります。熱が何度以上なら休むのか。誰に連絡するのか。その日の訪問をどう振り分けるのか。
体調が悪いときに自分で判断するのは難しいです。事前に決まっていれば、決まりに従うだけになります。休みやすさは、その人の性格ではなく、事業所の準備で決まると思っています。
事業所には感染症のBCP、つまり業務継続計画があるはずです。当メディアでBCP研修を扱った記事では、45分で回せる研修の型を紹介していました。
今年の早い流行入りは、そのまま研修の題材になります。もし来週、職員の3人が同時に休んだら、その日の訪問をどうするか。誰の訪問を優先し、誰に電話対応へ切り替えてもらうか。
答えを出す必要はありません。話し合って、決まっていないことが見つかれば、それだけで研修の成果です。
感染対策は、流行してから始めると間に合いません。手袋や消毒液の在庫を確認する。訪問の順番を変えるときの連絡先を決める。ワクチンの時期を管理者と話す。どれも今日できます。
去年より5週間早いということは、準備の時間が5週間短いということです。まだ半袖で訪問している時期に、こういう話をするのは気が早く感じるかもしれません。
でも、いつもと違う年です。私は先週、事業所の消毒液の残りを数えました。思っていたより少なくて、発注をお願いしました。そのくらいのことから始めていいのだと思います。