2026年7月23日、社会保障審議会の介護給付費分科会が開かれた。議題は「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築」。2027年度の介護報酬改定に向けた議論である。
ここで示されたのが、「特定地域」——中山間・人口減少地域をどう線引きするか、という基準の素案だった。2027年4月から始まる新しい枠組みの、対象地域を決める物差しである。
訪問看護ステーションの経営者にとって、この資料は二つの意味で読む価値がある。一つは、自らの事業所が「特定地域」に入るのかどうか。もう一つは——こちらのほうが重い——その新しい枠組みの中に、訪問看護が入っていない、という事実である。
前提となる数字から確認する。
2040年に向けて、85歳以上を中心とした高齢化と、生産年齢人口の減少が同時に進む。ただし、その現れ方は地域によってまったく異なる。都市部では高齢人口が増え続ける一方、過疎地域では高齢人口そのものが減っていく。
国土審議会の資料によれば、558の市町村——全市区町村の約3割——が、将来的に人口が半分未満になる。そのうち21市町村は、25%未満にまで落ち込む。人口が半減する市町村は、中山間地域に多い。
在宅サービスの利用者数も同じだ。全国で見れば2040年にピークを迎えるが、保険者ごとに見ると景色は変わる。すでに2024年までに313の保険者(19.9%)がピークを過ぎており、2035年までには906の保険者(57.6%)がピークを迎える。町村に限れば、246の保険者が2024年以前にすでにピークを越えている。町村全体では、2040年までに在宅サービス利用者が11.6%減る見込みだ。
需要が増え続ける地域と、すでに減り始めた地域。この二つが同じ制度の下にある。ここに、今回の見直しの出発点がある。
この状況への対応として、2026年に社会福祉法等の一部を改正する法律が成立した。そこで創設されたのが、「特定地域サービス」と「特定地域居宅サービス等事業」である。施行日は2027年4月1日。
特定地域サービスは、中山間・人口減少地域に限定した、特例的なサービス提供の枠組みだ。柱は二つある。
一つは、人員配置基準の弾力化である。管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件などを緩和する。職員の賃金改善に向けた取組、ICT機器の活用、事業所間の連携などを前提としたうえでの措置だ。
もう一つは、包括的な評価の導入である。現行のサービス提供回数に応じた出来高報酬とは別に、月単位の定額払いを選択できるようにする。中山間地域では、利用者都合の突然のキャンセル、利用者宅間の移動負担、季節による繁閑の激しさから、年間を通じた安定経営が難しい。定額払いは、その予見性を高める仕組みだ。
さらに、市町村が給付に代えて、介護保険財源を使って事業費として委託する「特定地域居宅サービス等事業」も設けられる。通常の圏域を超えた移動経費なども含めて支払える設計になっている。
では、どの地域が対象になるのか。ここが今回示された素案の核心である。
国は、75歳以上の人口に着目する方針を示した。理由は明快で、75歳以上の要介護認定率は30.8%と3割を超えており、介護サービス利用の中心となる層だからだ。65歳から74歳の認定率が4.3%であることと比べれば、その差は歴然としている。
そのうえで示された基準の案が、次の二つである。
一つ目は、「75歳以上人口密度が5人/㎢未満」であること。特別地域加算の対象市町村(全域指定)における75歳以上人口密度は、中央値3.8人/㎢、平均値7.2人/㎢。この分布を踏まえた水準だ。
二つ目は、「75歳以上人口が1,000人未満、かつ減少している」こと。人口密度の基準に当てはまらなくても、地域の規模や利用者の減少によって事業所の維持に課題を抱える地域を拾うための基準である。特別地域加算の対象市町村の75歳以上人口は、中央値725人、平均値1,146人だった。
この二つのいずれかに該当する市町村は、356市町村。全体の20.5%にあたる。内訳は、特別地域加算の対象市町村(全域指定)が299、人口密度の基準で新たに該当するものが40、人口規模と減少の基準で新たに該当するものが17町村である。
なお、同一市町村内でも地域によって状況は異なるため、市町村内の一部エリアを指定することも可能とされている。範囲としては、旧市町村単位、行政区単位、日常生活圏域単位が想定されている。最終的な対象地域は、市町村の意向を確認したうえで、都道府県が決定する。
国会の附帯決議では、この適用がなし崩し的に拡大しないよう適切に運用すること、市町村未満の地域指定について客観的基準を明確化することが求められている。線引きは、緩められる方向ではなく、絞り込まれる方向で設計されている。
ここからが、訪問看護の経営者にとって直視すべき点である。
配置基準の弾力化について、資料はこう記している。検討の対象として念頭に置くのは、現行の基準該当サービスの対象となるサービス、すなわち訪問介護、訪問入浴介護、通所介護、短期入所生活介護、福祉用具貸与、居宅介護支援。これに施設サービス(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院)と、居宅サービスのうち特定施設入居者生活介護を加えたもの、である。
この一覧に、訪問看護はない。
理由は制度の成り立ちにある。基準該当サービスの対象サービスに、訪問看護は元から含まれていない。今回の特定地域サービスは、その基準該当サービスの枠組みを土台に設計されているため、訪問看護は自動的にその外側に置かれる構造になっている。
包括的な評価についても同様だ。資料の論点は「中山間・人口減少地域における戸別訪問型の訪問介護事業所への対応を念頭に置いて」と明記している。月額定額という新しい報酬の形が検討されているのは、訪問介護である。
もっとも、訪問看護に柔軟化の道がまったくないわけではない。離島等の地域で認められている離島等相当サービスでは、訪問看護の看護職員の配置基準を、常勤換算2.5人以上から1.5人以上に緩和した例が示されている。既存の仕組みの中に、訪問看護向けの緩和は存在する。
ただし、この離島等相当サービスを実施している保険者は、全国で27(全保険者の1.7%)にとどまる。制度としてあることと、使われていることは、まったく別である。
中山間地域等に対する加算については、訪問看護も対象である。特別地域加算(所定単位数の15%)、中山間地域等における小規模事業所加算(10%)、中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算(5%)。いずれも訪問看護は算定できる。
問題は、その算定実績だ。令和7年11月審査分のデータで見る。
訪問看護の請求事業所数は17,427。このうち特別地域加算を算定したのは458事業所で、算定率は2.6%。中山間地域等における小規模事業所加算は123事業所で0.7%。中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算は416事業所で2.4%である。回数ベースで見れば、いずれも算定率は0.2%以下にとどまる。
参考までに、居宅介護支援の特別地域加算は1,697事業所(4.8%)、小規模多機能型居宅介護の小規模事業所加算は592事業所(11.3%)である。訪問看護の算定水準は、決して高いほうではない。
数字が語っているのは単純な事実だ。中山間地域に、そもそも訪問看護ステーションが乏しい。加算の対象となる地域で事業を営む訪問看護事業所自体が、少ないのである。
ここで、一つ指摘しておきたい経緯がある。
介護保険の特別地域加算がどのように生まれたか。1998年10月、医療保険福祉審議会の介護給付費部会がまとめた中間とりまとめには、こう記されている。移動に時間を要し事業運営が非効率にならざるをえない地域の在宅訪問系サービスについては、現在の訪問看護の特別地域加算のような加算を検討する必要がある、と。そして、訪問看護ステーションの特別地域訪問看護加算の範囲や費用の実態を踏まえて検討すべきである、とされた。
つまり、介護保険における中山間地域への加算は、訪問看護の仕組みを手本にして設計された。訪問看護は、この分野の先行者だったのである。
その訪問看護が、四半世紀を経て示された新しい枠組みの、対象として念頭に置かれるサービスの一覧に入っていない。制度の設計思想が、基準該当サービスという別の系譜を土台に組み上げられた結果である。意図的な排除ではないだろう。だが、結果として生じている位置づけは、直視しておくべきものだ。
では、訪問看護ステーションの経営者は、この議論をどう追えばよいか。
第一に、自らの事業所の所在地が「特定地域」に該当しうるかを把握しておくこと。75歳以上人口密度5人/㎢未満、あるいは75歳以上人口1,000人未満かつ減少。この物差しに照らして、自らの市町村がどの位置にあるかを確認する。該当するなら、市町村の意向確認と都道府県の決定というプロセスの中で、地域の事業者として意見を述べる機会がありうる。
第二に、中山間地域等に係る加算の見直し議論を追うこと。分科会の論点5には、現行の中山間加算について「どのような対応が考えられるか」と明記されている。そして令和8年度の調査研究事業として、中山間・離島等地域の約5,000事業所と、都道府県・市町村への悉皆調査が、この7月から9月にかけて実施されている。加算の対象地域や評価の水準が見直される可能性は、現実にある。この調査に対象事業所として回答を求められたなら、それは自らの実態を制度に伝える数少ない機会である。
第三に、配置基準の弾力化と包括的評価の議論が、今後どこまで広がるかを注視すること。現時点で示されているのは、あくまで検討の対象として念頭に置くサービスの案であり、議論は始まったばかりだ。訪問介護で先行して設計された仕組みが、後から他のサービスへ広がることは、制度の歴史の中で珍しくない。
人口が減る地域で、介護サービスをどう維持するか。国はいま、その問いに対して、地域を限定した特例という形で答えを出そうとしている。基準を明確にし、なし崩しの拡大を防ぎながら、必要な地域にだけ柔軟性を認める。設計としては、筋が通っている。
だが、その柔軟性の対象に、いま訪問看護は含まれていない。訪問介護が撤退した地域で、訪問看護だけが残ることは難しい。逆もまた同じだ。在宅を支える両輪のうち、片方にだけ新しい仕組みが用意され、もう片方は現行の枠組みのまま置かれる。この非対称が、人口が減る地域の在宅医療に何をもたらすのか。
2027年4月まで、あと8か月余りである。訪問看護がこの議論の外側に置かれ続けるのか、それとも途中で対象に含まれてくるのか。それを決めるのは、これから積み上げられる議論と、実態を示すデータだ。制度の外側にいることに気づかないまま議論が終わるとすれば、それこそが最も避けるべき事態である。